(緊張する…!)

ついにやって来てしまった約束の日。
外で待つ私は落ち着ける気が全くしない。
もう今日…いや、あの日から私は大変だったんだ。
服何着ていこうとか髪型どうしようとか、何話したらいいのかとか…そんなことをずっと考えてはああでもないこうでもないの繰り返し。
サッチさんはあの時の電話で髪とか服とかどうしようって言ってたから…うう、ハードル上がっちゃったし…!

「変じゃないかな…。」

鏡の前に何回も立って。
髪もいつもより丹念にといて。
化粧も普段よりずっと丁寧にして。
これで大丈夫と出てきたものの…やっぱり不安になってきてそわそわとしながら自分をくるりと見渡す。
…はあ、サッチさんに好きな服とか髪型とかを聞いておけばよかっ…

「お待たせ。」
「!」

声にびくりとしてしまう。
ぱっと振り向くと楽しそうなサッチさんの姿。
いや、それはいいんだけど、そ、その…

(か、かっこいい…)

ジーンズに、白のインナーに、黒のジャケット。
そして髪型はばっちりとリーゼントが決められている。
シンプルなのにサッチさんの着こなしがすごくてつい見とれてしまう。

「どうかした?」

少し腰を屈めて、私の顔をのぞきこむように。
サッチさんとの距離が近くなってつい顔をそらしてしまった。
だ、だめ!私今日サッチさんまともに見れない…!

「ひひっ。今日髪上げたの?」
「…へん、ですか?」

迷って迷って、延々と悩んだ結果髪を上げることにした。
いつもずっと髪を下ろしていたからそれでいこうかなとも思ったんだけど…今日は特別な日だから。
でも好きなタイプの髪型ってそれぞれあるし、サッチさんはもしかしたら下ろしてる方が好きなのかもしれない。
待ってるときからずっと気がかりだったんだ。
けど。

「いいや?今までずっと髪下ろしてたから雰囲気変わるなーって。かわいい。それに何かおれのときだけ特別って感じで嬉しいし。」

見事に言い当てられて恥ずかしくて、でもサッチさんのその一言が嬉しくてたまらなくどきどきして。
最初からこんな状態で私は今日大丈夫なんだろうかと新しい不安がやってくる。

「あ、ありがとうございます…。」
「ん。今日どうする?フィルちゃんが行きたいとこあったらどこでも連れてってあげるけど。」
「えっ、」

い…行きたいところですか!?
どうしよう全然考えてなかった!
というかデートって普通はどこ行くの!?
サッチさんだめです!今日の私にそういうこと訊いちゃだめです…!

「…くくっ。まあ今日は軽くふらついてそのあとお茶するくらいにしとこうか。なんたってハジメテだし、最初からとばしてたらフィルちゃんもたなさそうだもんな。」

パニックになっているのが明らかだったのか、サッチさんは可笑しそうにくつくつと笑う。
は、初めてって強調された…。

「…それでお願いします。」
「よし決まり。フィルちゃん、」

もう完全にサッチさんのペースだ。
ますます今日これからが不安になって内心ため息をついていると、私を呼んだサッチさんがくしゃりと笑って。

「よろしくな。」
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