おれは正直浮かれていたんだと思う。
だからあんな普段はしないようなミスをしちまったんだ。

「お疲れー…って、どうしたんだ?」

外から戻るといつものやつらが集まって何やら騒いでいた。
まあ雰囲気からして楽しいことなんだろう。

「あ、お疲れ。そうだ!サッチも一緒に行かねえか?」

振り向いたエースが言いながらこっちへ来いと手で合図をしてきた。
こいつは本当わかりやすいよなと思いつつ輪の中に入る。

「何だよ、どっか行くのか?」
「今度の土曜に入ってたやつ日が変わっただろ?だから遊びに行こうかって話してたんだよ。」

ああ、そういうことか。
週末なんて滅多に休みなんか揃わねえしなあ、集まるときはいつも飲みだしたまには騒ぐのもいいもんだ。
けど。

「あー…悪いけどパス。もう予定入れちまったからな。」

その日はすでに大事な予定がある。
そう、フィルちゃんとデートをする約束をしたんだ。
何たって初デートだぜ?
フィルちゃんには電話越しにしっかりと意識付けしといたし…もう楽しみで仕方ねえ。
あー…くそ、絶対かわいい、もう絶対。

「えー?サッチ来ないの?からかう相手いなくなっちゃうじゃん。」
「お前なあ、おれを何だと…」
「じゃあフィルでも誘うか?土曜だし大学は休みだろい。」

ひくりと顔がひきつる。
マルコお前…今何つった?

「わ!賛成!」
「それいいな、フィルはこういうときしか会えねえし!」
「ちょっと待てお前ら。」

とんとんと進む様子に思わず口を挟んでしまった。
いや、けどここは何としても阻止しねえといけねえ。

「?どしたのサッチ。」
「その、あれだ。フィルちゃん今レポート多くて忙しいっつってたし…」

もちろんこれはとっさに口をついて出た嘘。
もしかしたら本当に課題はあるのかもしれねえが…まあこう言っとけば大抵は遠慮してくれるだろう。

「そうなのか?なら仕方ねえ…」
「くくっ。」

上手く収まったかと思ったのに、だ。
イゾウのやつが笑うんだよ!
おとなしくしてろ!お前がそういう顔すると嫌な予感しかしねえんだよ!

「サッチ、お前予定入れたって言ってたな。誰と会うんだ?」

絶対に言いたくない。
どれだけ大金積まれても、例えこいつらが頭下げてきてもだ。

「誰だっていいだろ?お前らには関係」
「本当にお前は面白いな。…人と会う約束してたのか。」
「!」

しまった。
やってしまった。
普段ならこんなミス絶対にしねえのに。
はっと気づいて残りのやつらを見ると、そういう目しかしてねえ。

「あー、サッチもしかして…」
「くくっ、こんな簡単に引っかかるなんてらしくねえじゃねえかよい。」
「せっかくの休みだからな。しかも土曜で大学もねえ。」

あー言うな!絶対言うなよ!?
もうわかったからそれ以上…

「…あ、わかった!お前フィルと」
「違う!絶対に違うからな!た、確かに人と会う約束してっけどフィルちゃんじゃねえからな!」

エースの純粋さは時に残酷だ。
けどここで認めちまったら全てが終わる。
もしこいつらに本当のこと言ってみろ…それこそ悪夢だ、想像もしたくねえ。
初デートの邪魔なんてされてたまるか!

「ふーん?じゃあ誘っても問題ないよね?」
「だ、だからレポート多くて大変そうだから」
「誘うのは自由だろい。行く行かねえはフィルが決めることだ。」
「それもそうか。じゃあ一回メールして…」
「お前らちょっと待て!」

メールなんてされたら確実にアウトだ。
レポートの話が嘘だとバレるし、そもそもフィルちゃんはこいつらに隠すなんてしないだろう。
あー…こうなったらもう腹をくくるしかねえ!

「…ああそうだよ、お前らの考えてる通りおれはフィルちゃんと会うんだ!」
「じゃあその日は嬢ちゃんとデートってわけか。」
「あ!もしかして初デートじゃない!?」
「へえ、順調そうじゃねえかい。」

デート言うな!
お前らが言うと何かむかつくんだよ!

「いいかお前ら!おれはその日フィルちゃんとデートするんだよ!ふたりきりでだ!絶対邪魔すんじゃねえぞ!?絶対にだ!」

絶対に、絶対に邪魔されたくない。
これだけ言えばいくらこいつらでもわかってくれるだろうなんて思っていたのだが。

「くくっ、何そんなに怒ってんだ?」
「プライベートでしょ?それくらいわかってるって。」
「楽しんでこいよ!」
「変に気合い入れて恥かかねえようにしろよい。」

…だめだ、全く信用できねえ。
あのエースの言葉にだって裏があるんじゃねえかと勘ぐっちまうくらいだ。
果たしておれはデートを心から楽しむことができるんだろうか。
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