「ええと、明日は水曜日だから…」

翌日の講義を思い出して必要なものを鞄に詰めていると、机の上に置いていた携帯が振動を始めた。
電話だ、えーっと…

(サッチさんからだ…!)

その名前だけでつい嬉しくなっちゃうんだ。
座り直したあと、一度深呼吸してから携帯をとる。

「もしもし、フィルです。」
「遅くにごめんな。もう寝るとこだった?」
「いえ、大丈夫です。明日の準備してましたから。」

今、私はサッチさんとお付き合いさせてもらっている。
サッチさんは仕事が忙しいみたいで出会えてはいないけど…でもメールは毎日一回はしてくれるし、電話する回数だって前よりも増えたんだ。
私なんかがサッチさんと付き合ってるなんて実感が無さすぎて、まだ気持ちがふわふわしてる。
もう3週間は経つのになあ…。

「サッチさんは今まで仕事だったんですか?」
「ん?まあ…そんな感じかな。」

時計を確認すれば日付が変わるまで一時間もないところだった。
喫茶店なのか何でも屋の仕事なのかはわからないけど…遅くまで大変なんだなと思う。

「…遅くまでお疲れさまです。」
「ありがと。…欲言うならもう一言くらいあれば疲れなんて吹っ飛ぶんだけどなー。」

ちょっとおどけた言い方で。
きっとサッチさんが目の前にいたら、にやりと含み笑いをしているはずだ。
あんまり良い予感がしない…。

「例えば…」
「そりゃまあ…サッチさん大好き!とか?」
「!えと、それは、あの…」
「くくっ。」

は、恥ずかしい…。
サッチさんは私がそういうことが恥ずかしくて言えないのをわかっててからかってくるんだ。

「あのさ、今度の土曜ってフィルちゃん空いてる?」
「はい、大丈夫ですけど…。」
「その日午後からなら空いてんだけど…どっか行かねえ?」
「は、はい!行き…」

サッチさんとお出かけ。
楽しみだなあと嬉しくなったのは一瞬で、遅れてその事実に気がついてしまう。
前まではそうじゃなかったけど…今私とサッチさんって付き合ってるんだよね?
それで一緒に出かけるってことは…

「どうかした?」
「あの、それって…」
「もちろんデート。しかも初。」

やっぱり…!!
わざとらしくたっぷりと発音したサッチさんは確信犯としか思えない。

「いやー、楽しみだなあフィルちゃんとの初デート。髪型とか服とかどうすっかなー。それにどこ行こうか迷うわー。あ、迎え行くから時間とかまたメールするな?」
「!サ、サッチさん待ってください、わたし」
「それじゃ、お や す み。」

き、切らないで…!
やけに楽しそうなサッチさんの姿が頭の中で自然と再生されてしまう。
約束の日まであと3日。
その日数の少なさに私はひとり呟いた。

「大変だ…。」
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