「フィルちゃん、さっきの占いって本当に当たんの?」

ふたりでいろんな所を見てまわった。
バンドの演奏やパフォーマンス、各サークルの展示に模擬店、それからクラスの出し物など…サッチさんとこれだけ歩き回ったのは初めてかもしれない。
今は有志で行われている占いをしてもらい、部屋から出てきたところだ。

「え?そ、そうですね…大学内ではすごく当たるって評判ですけど。何て言われたんですか?」
「よく考えてから行動しろって。フィルちゃんは何て?」
「えっと…場の雰囲気に流されないように気を付けなさいって言われました。」
「ああ、フィルちゃんっぽいな。」
「!まあ当たってます、けど…。」

こうやっていつもと同じように話ができて嬉しかった。
それもサッチさんが普段と変わらずにいてくれたからだ。
でもほんの少しだけ口数が多く感じるのはきっと気のせいじゃなくて、どうしても余計なことを考えて意識してしまう私を気遣ってくれているからだと思う。

「はー…、少し疲れたな。」

外に出て少し歩いたところでサッチさんがぐっと伸びをした。
段々と歩く速度はゆっくりになって、最終的にはぴたりと止まる。
私もその場で止まると、サッチさんは私に向き直って。

「静かな場所ってある?…できたら人が来ねえとこがいい。」

真っ直ぐに見つめられる。
私はきっとそういうことなんだろうなと思いながらうなずいた。

ーー


「ここ、使って大丈夫なの?」

静かな廊下を歩き、とある教室に入った。
サッチさんは教室内を見渡しながらゆっくりと進んでいく。

「はい。この棟では何もやってないですし…誰も来ないと思います。」
「そっか。」

サッチさんは窓際まで来ると片手をついて下を見下ろした。
ここは三階だから外の様子がよく見えるんだと思う。
私も隣へ並んで下を眺めると、お昼のときよりも人が減っていることがわかった。
学園祭も…あと一時間ほどで終わりだ。

「……」

そっとサッチさんの方を見ると、サッチさんはまだ窓の外に目を向けている。
私が見ていることは気づいてるのかもしれない。
けれど、サッチさんは何か言う素振りも見せずにただじっと外を眺めているだけだった。

「…サッチさん」

静かに呼ぶと、サッチさんはゆっくりと振り向く。
きっと私のために待っていてくれたんだろうなと思う。

「何?」
「この前は…本当にすみませんでした。」
「うん。」

正直驚いてしまった。
だってサッチさんがこんな返事をすると思ってなかったから。
顔に出てしまっていたのか、サッチさんが苦笑しながら続ける。

「原因つくったのおれだし…本当は謝ってほしくねえんだけどさ、フィルちゃんは謝らねえと気がすまねえんだろ?だから。」

この話はこれでお仕舞い。
そう笑って付け足されてしまったので、少し後ろめたさを感じつつもサッチさんの優しさに素直に甘えることにした。

「…ありがとうございます。」
「いいって。…話は以上かな?」

視線をそらしたあと、ふるりと首を横に振る。
サッチさんから返事はなかったけれど、私が何を話したいかはわかっているはずだ。
…すごく、緊張する。
さっきまではそんなことなかったのに、途端に口の中が渇いてくるし心臓が一方的に主張してくる。
喉の奥が苦しくてやっとの思いで息を飲み込んだ、その時。

「ゆっくりでいいよ。最後までちゃんと聞くから。」

表情は見なくてもわかる、それくらい優しい声だった。
その声だけで気持ちがすごく楽になる。
小さくうなずいて、それからゆっくりと口を開く。

「…このまえ、もっと一緒にいたいって言ってくれましたよね。…わたしもです。私もサッチさんともっと一緒にいたいですし…もっとたくさん話がしたいです。それに…サッチさんのこと、もっと教えてほしいんです。」

声が震えてる。
こんな声で、こんな言い方でちゃんと届いているだろうか。

「私にとってサッチさんはすごく大事な友だちで、でも…それ以上に大切な人なんです。」

時間はかかったけど、やっと気がついた。
私がサッチさんをどう思っているのか。
私にとってサッチさんがどういう存在なのか。

「…私、子どもっぽいしそんなにしっかりしてないし綺麗でもないからサッチさんに似合わないかもしれないですけど、その、…言わせてほしい、です。」

恥ずかしくて、緊張してなかなか言い出せない。
でも、言いたい。
その気持ちが溢れてくるから。

「わたし、サッチさんが好きです」
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