「また告白されたの!?」
「声、大きいってば…。」

誰かに聞いてほしくて仕方がなかった。
講義終わりにアキを引き連れカフェへと向かい、そこで事を説明する。
声が大きいのが気になったけど強く注意する元気がない。

「ああ、ごめんって。…で、誰よ。」
「……サッチさんから。」
「へえ、やっぱり気があったのね。」

さっきの反応とは大違い。
それほど驚いた様子もなくアキはひとり納得しているようだった。
しかもやっぱりって…何で?

「な、何でそんなことわかるの?」
「よく考えてみなさいよ、自分だけじゃ行きにくいからってフィルを連れてったんでしょ?そもそも彼女がいたらフィルに頼む必要もないし…大なり小なり気があるからに決まってるじゃない。」

すらすらと述べられた説明に息がもれる。
サッチさんとは何度か一緒に出掛けたことがあるけど…まさかあんな風に思ってくれていたなんて少しも気づかなかったし考えてもみなかった。

「返事は?どうせまだなんでしょ?」
「う、うん…というか逃げてきちゃったし…。」
「逃げた?」
「何というか…その、耐えきれなくて…」
「……そう。」

アキの顔がひきつったも当然だと思う。
…サッチさんはどう思ったんだろう。
困らせたくないって言ってたし…やっぱり傷つけてしまっただろうか。

「…どうしたらいいと思う?」
「どうしたいと思ってるの?」

今の私にとっては一番痛い言葉が返ってきた。
そう、誰かに自分の気持ちを委ねたって意味がないんだ。
…それは私もわかってる。

「私が何か言ったって結局決めるのはフィルでしょ?」
「……」
「向こうはちゃんと伝えてくれたんだから、フィルもちゃんと考えてあげなさい。」

…サッチさんは本当に優しい人だ。
私が相手でもひとつひとつ言葉を選んで気持ちを伝えてくれたし、下に見るなんてこともしなかった。
もし断ったとしてもサッチさんは怒ったり冷たくしたりなんてしないんだろう。
サッチさんがそうしてくれたように私もサッチさんと向き合ってちゃんと気持ちを伝えるべきだし…自分の言葉で伝えたいと思う。

「ごめん。…ありがとう。」
「どういたしまして。…返事、あんまり延ばさないようにしなさいよ?」
「…それなんだけどね、今度の学園祭に知り合いの人たちと一緒に来るみたいで…その時にしようと思ってるんだ。」

ついこの前ハルタさんから連絡が来た。
学園祭のことは言ってなかったんだけど、ハルタさんやイゾウさんは大学まで来たことがあるからホームページでも見て知ったのかもしれない。
あと二週間もない。
来てくれるのはすごく嬉しい、けど…

「…暗い!」
「痛っ!?」

いきなり額を指で突かれた。
その箇所を手で押さえながらやった張本人を見ると、明らかに怒っている。

「な、何?」
「雰囲気が暗い!しゃんとする!」
「はい!」

まさか注意まで受けるとは思わず反射的に口調が変わる。
ぴしっと背筋を伸ばした私に今度は人指し指が突きつけられた。

「あのね、間違っても自分じゃつり合わないとかつまらないこと考えるんじゃないわよ?自分がどうしたいかを考えるの。いい?」
「わ、わかった。」

急な指摘を受けて戸惑いながらも返事だけはすると、アキはやっと表情を緩めてくれる。
少し乱暴だけど…要は元気がない私に対してしっかりしろって言いたいんだろうな。

「ならよし。…あ、大学来たら呼んでよね、フィルがいつもお世話になってますって言いたいから。」
「ええ?何か恥ずかしくない?それ…。」

ーー


家に帰ってもいつもみたいに落ち着かない。
何をしていても、何もしていなくてもずっとどきどきしてる。
返事をしなきゃいけないのに、自分がどうしたいのかを決めなきゃいけないのに体の奥が騒がしくて考えがまとまらない。

「……」

これで何度目のため息だろう。
こんなにどきどきするのは気持ちを聞いてしまったからだろうか。
それとも相手がサッチさんだから?
返せもしないメールを見てあの人のことを思い出していると、突然画面が切り替わった。
電話…マルコさんからだ。

「もしもし、フィルです。」
「…大丈夫かよい。」
「え?」

思わず聞き返してしまった。
いつもと同じ言葉のはずなのに、何故だか違う印象を受けてしまう。
…私の気のせいなのかな。

「今ですか?大丈夫ですけど…どうしました?」
「…いつでもいい、空いてるとき教えてくれねえかい?」
「え?は、はい。ちょっと待ってください。」

空いているとき。
慌てて鞄を引き寄せ手帳を取りだし、ぱらぱらとページをめくる。
その最中、マルコさんは続けてこう言った。

「会って話してえことがあるんだよい。」
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