「お疲れさん。」
やっと処理が終わって目一杯伸びをしていたぼくの目の前にコーヒーが置かれた。
イゾウだ。
「ありがとう。」
「恨まれてるからな、機嫌とっとかねえと。」
そう言いながらイゾウは隣の席に足を組んで座る。
ちっとも思ってないくせに。
「別に?イゾウのせいでフィルと帰れなかったからってぜーんぜん怒ってませんけど?」
「おいおい。」
「それにサッチがフィルと帰れたし?サッチのこと応援したいからむしろよかったけど?」
わざとらしく言ってみせるとイゾウは肩を揺らして笑い始めた。
イゾウもサッチのことは応援するみたいだから、あの時フィルにああいう行動をしたのはふたりきりにしてあげるためだったんじゃないか、なんて思って。
だから帰る途中で「わざとやったの?」って訊いたんだ。
そしたら何て答えたと思う?
「いや?お前らが勝手に勘違いしただけで、おれは面白そうだから乗っただけだ。」
結果的にふたりで帰れたからよかったじゃねえかって…はあ、感心して損したよ。
「むくれるなって。代わりにいい情報教えてやっただろう?」
「まあね、…あー楽しみ!」
イゾウがいいことを教えてくれたおかげで楽しみがまたひとつ増えた。
あーあ、みんな早く来ないかなあ。
がちゃ。
「お!お疲れ!」
くるくると椅子ごと回っていると、ドアからはエースの姿。
あとのふたりは…んー、いないかあ。
「お疲れエース。」
「お疲れさん。」
おう、と手をあげて返すエースに手招きをひとつ。
するとエースは頭と顔に「?」を浮かべて近寄ってきた。
「エース、この日空けといて。絶対ね。」
「ああ、わかった。…何かあるのか?飲み?」
指示されたカレンダーの日付とぼくを交互に見ながらエースは不思議そうな顔をする。
もっと面白くて、もっと楽しいことだよ。
「違うよ。フィルの大学で学園祭があるんだって。」