ばたんっ。

ドアを閉めて背をあずけたところでようやく我に返った。
息が苦しい。

「どうしよう…っ。」

逃げてきてしまった。
サッチさんが気持ちを伝えてくれたというのに。
信じられなくて、わけがわからなくて、あの場にいることが苦しくなって逃げ出してしまったのだ。
おぼつかない足取りで部屋の中に入り、そのままぺたりと座りこむ。

「サッチさんに…謝らないと…。」

別れの挨拶も何もしていない。
本当に、本当に最低なことをしてしまった。
呼吸もいまだ乱れている中ずっと握ったままでいた携帯を見れば、一件のメールが届いている。
もしかしてと思いながら確認すると、やっぱりあの人から。
表示された名前を見て息が詰まったけれど、躊躇いながらもメールを開く。

『びっくりさせてごめんな。けどさっき言ったこと、嘘じゃねえから。返事は急がねえしフィルちゃんが落ち着いてからでいいよ。服もその時でいい。

遅くまでありがとう。おやすみ。』

「あ、……。」

メールを見て気がつく。
サッチさんの服…羽織ったままだ。
服を握るとさっきまでのことを思い出してどうしようもなくなる。
心臓がすごく速くなって、顔が熱くなって、体の奥がぎゅっと苦しくなる。
サッチさんの言った言葉がまだ耳に残っていて、それが頭の中で何度も何度も繰り返される。

「サッチさんは悪くないのに…。」

本当に優しい人だと思う。
私が受け入れきれなくて逃げただけ。
困るどころか嬉しいに決まってるなんてどうして言ってしまったんだろう。
話を信じられなくて、冗談ですかって何度も訊いてしまった。
サッチさんはあんなに真剣に気持ちを伝えてくれたのに。

「…わたし、どうしたらいいんだろう…。」

思い返してしまうのはあの言葉。
結局、サッチさんからのメールに返信はできなかった。
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