私の住んでいるマンション近くの公園にやって来た。
サッチさんは公園とか久しぶりだなー、なんて跳ねた声で懐かしそうにするので少しかわいいなあと思う。
一歩後ろから眺めていると、サッチさんが自販機の前で急に止まった。

「フィルちゃん何飲む?」
「!そ、それくらい自分で」
「いーから。」
「あっ!」

慌てて財布を取り出したらひょいと取り上げられてしまった。
そのまま手を高く上げるので、私の身長ではどうがんばっても届きそうにない。
私が悔しがっている間に自分の分をさっさと選んでしまったサッチさんが催促してくる。

「ほらほら、何にすんの?」
「、じゃあミルクティーで…あったかい方の。」
「ん。…はい、どーぞ。」

飲み物と一緒に財布も返ってきた。
お礼を言えば、どこ座る?と楽しそうなサッチさんの返事。
遊びたいのかなあなんておかしく思いつつ辺りを見回すとちょうどベンチがあったのでそこに並んで座ることに。

「…ちょっと寒い?」
「、えっ」

サッチさんは返答を聞く前に自分の着ていたジャケットを私の肩にかけてくれて。
不意に感じたその大きさと暖かさに心臓が急加速を始める。

「それ羽織ってな。おれ暑がりだから大丈夫。」
「ありがとうございます…。」

そう言って座り直すサッチさんの顔を見ることができない。
確かに少し肌寒いかなとは思ったけど…こ、こういうことされるの慣れてないんです!
どうしよう、何だか変に緊張しちゃうし落ち着かないよ…。

「…なあ、前好きだって言ってきたやついただろ?ちゃんと断れた?」

何を話していいかわからず手に持っているものを両手でぎゅっと握っていると、サッチさんの方から話しかけてきてくれた。
そういえば相談はしたけど報告はしていなかったことを思い出す。

「はい。その後はぎくしゃくしましたけど、今はもう普通で…。」
「そっか、ならいいんだ。」

…優しい顔だ。
もしかして心配してくれてたのかな…。

「フィルちゃんはそういうの興味ねえの?」
「、えっと…」
「…あー、ほら、好きなやつとかそういうの。」

サッチさんは言葉にするのが恥ずかしかったのかふいと視線を外した。
興味がないといえば嘘になるけれど…そこまであるわけじゃない気がする。
…好きな人がいたらきっと違うんだろうな。

「…興味がないことはないですけど、好きな人もいませんし今は…。」
「こら、お菓子もいいけど若いんだからもっと遊びなさい。」
「!は、はい…。」
「くくっ。…じゃあ、気になってるやつもいねえの?」

…気になる人、かあ。
一緒にいて楽しいって思ったりどきどきしたりする人だったら…サ、サッチさんになるのかな。
でもそれだったらマルコさんとだって楽しいしどきどきするから…やっぱり憧れてるだけなのかもしれない。
というかそもそも私じゃつり合わないからなあ…。

「…その、いるような、いないような…。…サ、サッチさんはどうなんですか?そういう人。」

私のことばかり喋っているとだんだんと恥ずかしさに耐えきれなくなりそうだ。
それにこれ以上追求されても困るので今度はサッチさんに同じ質問を返す。
すると私を見返したサッチさんはきょとんとした顔をして。

「おれ?いるけど。」
「えっ!」

さらりと返答され思わず声をあげてしまった。
そんな私の反応を見てサッチさんは自嘲気味にくつくつと笑う。

「何、意外だった?」
「!いえ、そういうわけじゃ…」

びっくりした…サッチさんって好きな人いるんだ。
でも、いても別に変じゃないもんね。
…相手の人ってどんな人だろう。
サッチさんが好きになる人だからきっと私よりも年上だろうし…きれいで…あ、もしかしてその人も料理上手なのかなあ。
初めて知った存在の人について想像をしていると、隣のサッチさんがどこか遠くを見ながらため息をついた。

「…今な、言おうか迷ってんの。」
「どうしてですか?」
「おれ結構ビビりなんだ。フラれたらどうしようとか考えちまうし…それに言って相手困らせちまったら嫌だし。」

…意外だな、サッチさんってそういうの迷ったりしなさそうなのに。
サッチさんの悩む姿は私から見ても元気がないとわかるくらいだ、きっとその人のことがすごく好きなんだろうなと思う。
でもサッチさんが断られることってあるのかな…こんなに優しくて素敵な人なのに。

「…だ、大丈夫ですよ、サッチさんなら。」
「何で?」
「だってサッチさん優しいし格好いいし…それに面白くて料理上手ですし。」

サッチさんは私にだってすごく親切で優しくしてくれる。
格好よくて、でも時々子どもっぽくて面白くて…料理も全部美味しかった。

「ありがと。…相手、困らねえかな。」
「そんなことないですよ。サッチさんからだったら困るどころか嬉しいに決まってます。」
「けどおれ、お調子もんだぜ?」
「それも面白さです!」
「リーゼントは?」
「…き、きっと受け入れてもらえます!」

吹き出したあと、堪えるように肩を揺らしながらサッチさんが笑う。
気に障ったかなとか違う言い方をした方がよかったかなと心配になったけど…どうやら違ったみたい。

「…そうだな、言うか。」

どこか吹っ切れたようにそう言って、サッチさんが缶コーヒーの残りを一気に飲み干す。
…よかった、いつものサッチさんに戻ってくれて。

「サッチさん、がんばってください!」

視線で返してくれたサッチさんは携帯を取り出し操作をし始めた。
相手の人にメールか電話をするつもりなんだと思う。
サッチさんは本当に素敵な人だし、相手の人もきっといい返事をしてくれるよね。
でもそうなったら…今までみたいに話したり出来なくなるのかな。
…何だろう、寂しい?それに…

「!」

この大事な時に私の鞄から着信音。
マ、マナーモードにするの忘れてた…!

「ご、ごめんなさい…!」

慌てて謝るとサッチさんは怒るどころか口元を優しく緩めて笑ってみせてくれた。
も、もう私ってば本当最低だ…しかも電話だし…!
誰がかけてきたのか気にはなるけど、とにかく早く止めないと!
そう思って急いで携帯を手に取ったのに、その画面を見た瞬間固まってしまった。
だって、電話をかけてきた人が、

「フィルちゃん、…どうかした?」

今、私のとなりにいる人だったから。
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