「ねえフィル、今日は誰に送ってもらう?」
そろそろお開きの時間。
みんなで簡単な身支度を始めているとハルタさんが声をかけてきた。
…う、うん、これは何かをすごく期待している目だ。
「じゃ、じゃあ…」
「じゃあ?」
「……サッチさんに…。」
「えー!?」
ご、ごめんなさい…!
マルコさんとエースは飲酒運転になっちゃうから、実質サッチさんかハルタさんにお願いする形になる。
でもハルタさんに送ってもらうとなると…
「…はぁ、絶対イゾウのせいだよ?フィルと帰れないの。」
がっくりとうなだれながらそう言うハルタさんとは対照的にイゾウさんは可笑しそうに笑っている。
もしハルタさんにお願いした場合、イゾウさんとも一緒になるらしい。
もちろんイゾウさんのことは嫌いじゃない。
け、けどさっきのことがあるからちょっと…いや、大分気まずいというか何というか…。
「嬢ちゃん、悪かったな。」
どう返していいかわからず視線をそらせば「まいったな」なんて声が聞こえた。
でもちっともそれっぽく聞こえないし、イゾウさんからすればさっきの出来事は何てことないものらしい。
わ、私はまだこんな状態なのに…やっぱりイゾウさんはよくわからないなあ…。
「お前らまた明日な!フィル、おやすみ!」
エースはこのままマルコさんの家に泊まるみたい。
本当に仲が良いんだなあって思う。
「うん、おやすみ。」
「じゃあな。帰り、気を付けろよい。」
「はい。お邪魔しました、おやすみなさい。」
…つい返事をしちゃったけど、私は乗せてもらう側だからもしかしたらサッチさんに向けて言ったのかもしれない。
けどマルコさんは私を見ながら言ってくれたし…暗いから足元に気を付けろってことかな?
手を振るふたりに見送られ駐車場へ。
車のすぐ近くまで来ると、ハルタさんが急に私を呼んだ。
「いい?次はぼくだからね!絶対だよ!」
「わ、わかりました。」
約束を取り付けるとすっきりしたようにハルタさんが笑う。
そ、そんなに一緒に帰りたかったのかなあ…でも私喋るの得意なわけじゃないし大して面白いことも話せないからハルタさんの期待には応えられないと思うけど…。
「じゃあねフィル、おやすみ。サッチもまた明日ね。」
「おう。」
「はい、おやすみなさい。」
そう言って車に乗りこむハルタさんの後にイゾウさんも続く。
ど、どうしよう、挨拶はしたいけどやっぱり恥ずかしくて声がかけづらい…。
私がそうやって迷っているとイゾウさんがこっちを向いたので慌てて頭を下げた。
「くくっ…じゃあな。サッチ、よそ見すんじゃねえぞ。」
「するかバカ。」
…イゾウさんはやっぱり普通だし私が変に意識しすぎてるだけなのかなあ。
会話が一段落つくと、ハルタさんはもう一度お別れを言って車を発進させた。
残ったのはサッチさんと私。
「…そんじゃ、帰ろっか。」
「はい。お願いします。」
ーー
ー
「すみません、何度も送ってもらって…。」
「いいって。何フィルちゃん、イゾウと一緒で耐えられる自信あんの?」
「、え、えっと…」
「無理なら素直に頼ってなさい。」
な、何も言い返せない…。
隣ではサッチさんがくつくつと小さく笑うので恥ずかしさ倍増だ。
「…お願いします。」
「ん、りょーかい。…なあ、」
本当に少し。
少しだけなんだけど、話しかけてきたその声はいつもより落ち着いていたと思う。
「明日って朝早い?」
明日は日曜だ。
朝はゆっくりしてお昼から買い物しに行こうかな、なんて思っていたので特にその予定はない。
「いえ、大学は休みですし特には…。どうしました?」
もう遅いから心配してくれたのかな。
私はそう考えていたんだけど…。
「もう少しだけ話してえなと思って。」