感触は悪い方じゃなかったし、むしろ良い雰囲気だったとさえ思う。
なのに何でだ?何で返信が来ねえ?

「フィルちゃーん…」

呟いてみるも携帯は反応なし。
あとちょっとで二時間経っちゃうんですけど?
おじさん、その間に家に帰ってシャワー済ませてつまみつくってビール一本どころかもうすぐ二本目空にしちゃうんですけど?

「…やっぱまずかったか?」

事の原因かもしれないメールを開いて読み直すのはこれで何度目だろうか。
もう少し攻めてみることも考えたが、念には念をということで控え目にした。
これくらいなら彼女も大丈夫なはず。
そう思ったんだが、どうやら、これは、

「……引かれた?」

…自分で言っといてへこんだわ。
けど待ってくれ、本気でわからねえ。
今回は今までよりも彼女の感触が良かったんだ。
そわそわしてるっつーか終始恥ずかしそうにしてた気がするし…とにかく楽しそうにしてくれてた(ケーキ効果はあるだろうが)。
だからあれくらいの内容はいけるはずで、引かれるなんてことはねえ…はず。
となると、残る理由は…

「…困っちまったかな。」

多分これじゃねえかとは思う。
恥ずかしくてどう返していいかわからなくてそのまま時間が経っちまって…っていうのが彼女らしい理由。
けど全部憶測だ。
眠っちまっただけかもしれねえし、もしかしたら本当に引かれたのかも知れねえ。

「あー、くそ…」

気になる、すっげえ電話したい。
そう思ったらふっと頭が冷めて、次の瞬間には発信操作をしていた。
…こんなときにアルコールなんて摂るもんじゃねえな。

「もしもし、フィルです、」

出たのは予想よりも早い3コール目の途中。
声が焦ってんのはやっぱ返信してねえ罪悪感みてえなもんがあるからか?

「よお、おれだけど今ダイジョーブ?」
「は、はい、どうしたんです?」
「メール読んでくれた?あとの方。」
「!…よ、読みました、けど、」

フィルちゃんはそりゃもう結構な頻度でどもる。
大抵の場合は緊張からきてるんだろうけど、まあ今のは明らかに違う理由。
声だけでばれちまうとか…ホントわかりやすいというか何というか。

「ぜーんぜん返信来ねえからもしかして嫌われちゃっ」
「ち、違います!その、何て返そうか迷ってて、それで…」

遮ってからはだんだんと小さくなる一方の声。
…このカンジじゃ良い方に読みが当たってたな。

「そっかそっか。」
「…サッチさん何か楽しそうじゃありません?」
「そう?まあアルコール入ってるからかな。」
「ええ?」
「ちょーど今二本目のビール空いたとこ。」

主な理由はそっちじゃねえんだけど。
聞こえてくるのは戸惑いか驚きか、それとも心配にもとれる反応。
ま、彼女のことだからどちらも含まれているんだろう。

「ま…まだ飲むんですよね?」
「当然。んなことより?何て返してくれるつもりだったの。」
「!えっと、それは…」
「んー?」

焦って困り果てている姿が容易に浮かぶ。
意地悪だってわかってんだけど、反応見たさについついからかっちまうんだよなあ。

「その…」
「その?」
「……も、もうなんだっていいじゃないですか!」
「ひひっ。」

とうとう限界が来たらしく、彼女にしては珍しい大きめの声。
彼女の言っていることは結構当たっていて、今は返事がどうこうってよりも…話をしていたいってことの方が大きい。
けどまあ、ここら辺で止めときますか。

「仕方ねえから…今回は特別な?」

今回だけなんてのは嘘。
本当はいつだって。
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