「紅茶よし!あとは…」

いそいそと袋から取りだしたのは、サッチさんが別れ際にくれた手づくりのマフィン。
私は気にしてなかったんだけど…渡すのが遅くなったお詫びにって三種類もつくってくれたんだ。

「じゃあ早速…いただきまーす!」

一口かじると、これ以上はないってくらいの幸せがやって来る。
サッチさん、大事に食べさせていただきます…!

「…でも、私もらってばっかりだよね。」

もぐもぐと味わいながら思い出す、今までにもらった数々のおいしいお菓子たち。
お店でもサービスしてもらっちゃってるし…すごく嬉しいのはもちろんなんだけど、ほんの少し申し訳ない気持ちにもなる。

「…お返し、してみようかなあ。」

買ったものでお返しする?でもそれだとサッチさんに怒られそうな気がするし…やっぱり手づくりの方がいいかな。
だったら…クッキーとか?クッキーなら私もつくれるし渡しやすいよね。
次の約束は再来週だから、それまでに材料の用意と…あ、袋も買わなくちゃ!
他の誰かにつくるなんてことはあまりしないから急にそわそわしてきちゃった。
それに料理でもお菓子でも何でもおいしくつくっちゃうサッチさんに渡すんだもん。
うう、絶対に失敗できない…!

「大丈夫かなあ、迷惑にならないといいけど…。」

少し不安ではあるけれど、でも渡すときのことを想像すると不思議とわくわくするというか…何だろう、すごく楽しみだなって思うんだ。
…サッチさん、喜んでくれるかな。
そんなことを考えていたら机の上の携帯が振動。
メール…サッチさんからだ!

「…、!」

メールには今日のことへのお礼と、楽しかったという感想が書かれてある。
私も送ろうと思ってたんだけど、どうせならマフィンの感想も言いたいからって食べてる間に先を越されちゃったみたい。
…本当は私が誘惑に負けたからなんだけど。

「先に言いたかったなあ…。」

素敵なお店に連れていってもらって、おいしいお菓子までもらって。
そうでなくても優しくて面白くてお喋り上手、それに気配りも出来ちゃうからお礼くらいは先に言いたかったんだけど…はあ、サッチさんすごすぎるよ…。

「…よし、完成。」

気を落としつつも書いては消しを何度か繰り返してようやく返信文が完成。
何だか緊張しちゃって…そんなに長い文章じゃないのに少し間の空いた返信になっちゃった。
やっぱり時間かかりすぎかなと思いつつ送信完了の画面を見届け、紅茶を手にほっと一息つく。

「味…何にしよう。」

渡す相手が相手だから失敗しないように計画はしっかり立てなくちゃ!
どうせならサッチさんの好きな味がいいんだけど…サッチさんって何でも好きそうだよね。
だからって少し変わった味にする…なんてサッチさん相手に背伸びするような真似はしたくない(というかしない方が良い)から、プレーンが一番無難かなあ。
コーヒーはいつもブラックだし、甘さは少しだけ抑えめにして……あ、メールだ。

『食べるの早すぎじゃねえ?』

相手はもちろんサッチさんから。
けどその内容が帰って早々マフィンに手を出した私をからかうものだった。
は、恥ずかし…!サッチさん絶対笑ってるよね!?
食べたのはひとつだけだって反論したいけど…でも食べたことには変わりないだろって言われちゃうんだろうな、きっと。

「ああもう、失敗した…ん?」

どう言い訳しようかと悩んでいたらまた携帯が震えた。
返事を考えるのは一旦置いといて新しく来たメールを見ると不思議なことにサッチさんから。
連続で送ってくるなんて珍しいなあと思いながら開くと、そこに書かれていたのは。

「っ!?サ、サッチさん…!?」

『そういうとこ、おれはかわいいと思うけどな。』

顔がぶわっと熱くなって心臓が一気に加速する。
反則だこんなの、ずるすぎる。
そうじゃないかなって何度か思うことはあった。
でもあえて自分から気づこうとはしなかったし、マルコさんと同じものだって決めつけてたところがあったんだ。
けど、もうこれ以上は無視できないところまで来てるみたい。

「わたし、やっぱりそうなのかな…。」
- ナノ -