「うわあ…!」

髪を束ねた格好いいウエイトレスさんが運んできたケーキについ声が出てしまう。
かわいくてきれいなデコレーションがしてあるそれは食べるのが勿体ないくらいだ。

「こりゃすげえな。」

ぽつりと呟いたサッチさんは興味深そうにケーキを見つめている。
サッチさんも喫茶店やってるし…自分でつくるときの参考にするのかな。
そんなことを考えていると、私の視線に気づいたサッチさんが困ったように笑って。

「今日はそういうの抜きにしようと思ってたんだけどな…やっぱダメだったわ。」
「勉強熱心ですね。」
「んなことねえよ、…それより」

さっきとは一変。
口元だけで笑みをつくったサッチさんが私に差し出してきたのはフォーク。

「レディーファースト。先どーぞ。」

初めて来店して、なおかつ甘いものが大好きな私に眺めるのはこれくらいにして早く食べろとすすめてくれるサッチさん。
わ、私だって少しくらいは待てます!
そう心の中で反論してはみるものの…でも早く食べてみたいと思っていたのも事実。
な、何だか恥ずかしい…。

「ありがとうございます…。」
「どういたしまして。」

うつむいたせいでサッチさんの顔は見れないけど、多分いつもみたいに笑われてしまっているんだと思う。
視線はテーブルに向いたまま大人しく受け取り、やっぱり楽しみだったケーキを一口。

「…どう?」

そんなの決まってるじゃないですか…!
私が何て答えるかきっと分かっているサッチさんの質問に、こくこくと懸命にうなずいて返す。
口に入れて間もなかったため喋れなかった私の精一杯の『おいしいです』だ。
そんな私を見たサッチさんはくつくつと笑ってケーキを崩した。
サッチさんは美味しそうに食べてるけど、でもどこか考えごとをしているような雰囲気。
…やっぱり気になっちゃうんだろうな。
私が小さく笑うと、それに気づいたサッチさんは決まりが悪そうにしながら「やっぱダメだ」なんて言うから私はまた笑ってしまった。

「けど、」
「?」
「やっぱ来れてよかった。フィルちゃんのおかげだな。」

そう言ったサッチさんはすごく優しい顔で。
そんな風に感謝されたためかどきりとしてしまい、何だか気恥ずかしくなって視線をそらした。
わ、私はサッチさんおすすめのお店に連れてきてもらえて嬉しかったし…サッチさんが喜んでくれてるならそれはそれで私も嬉しいよね。

「わ、私なんかでよければいくらでも、」
「…んなこと言っちゃっていーの?」

目を細めてにやりと笑うその表情に息が詰まる。
次から次へといろんな顔を見せるサッチさんに翻弄されっぱなしだ。

「ひひっ。…実はさ、ここと同じ理由で行きにくい場所がまだあるんだよな。」

ちらりと店内に目をやりながらコーヒーを口にするサッチさん。
…同じ理由ってことは、その場所が女の人ばっかりだから行きにくいってことだよね?

「…こういうお店ですか?」
「いーや。」

クイズでも楽しんでいるようなサッチさんの返事に私の頭は「?」でいっぱい。
サッチさんが行く場所で、女の人がいっぱいで、でも喫茶店とかじゃなくて…じゃあどんなところだろ?
紅茶を飲みつつ当てはまりそうな場所を考えていると、正面のサッチさんからの視線に気がついて。

「なあ、また一緒に行ってくんねえ?」

楽しそうというか…やっぱりいつもと少し違う優しいそれにどきどきしてしまう。

「…わ、私でよければ。」

どうしてだろう。
なんだか、落ち着かないよ。
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