「サーッチ!」
「!」

ひとり分しかない背中を見つけて上機嫌のハルタ。
大抵マルコやエースが一緒なんだが…あいつらがいるとしたい話も出来ねえからな。
そいつは休憩中だったらしく、肩に受けた突然の衝撃にむせながら振り返る。

「ハル、タ、…てめっ、変なとこ入ったじゃねえか」
「ごめんごめん。でも誰か入ってきたのは気づいてたでしょ?」
「…そりゃ気づいたけどな、あんな挨拶されるなんて思わねえよ。」

溢れそうに中身が揺れるコップを置いて、サッチがため息をつく。
その様子を楽し気に見ながらハルタは軽々とソファーを飛び越えサッチの隣に座った。

「ハルタ、どうする。」
「、ありがと。今は甘めがいいなあ。」
「…さーて、そろそろ戻」
「サッチ。」

歪みの欠片もない得意の表情。
がしりと腕をつかんで立ち上がろうとするのを阻んできたハルタに最初は目で訴えていたサッチだったが、早々に諦めたらしく元の位置に腰を沈めた。
振りほどくのは簡単だろうがそうしないのはこいつの性格のせいということもあるし、普段こいつが相談を持ちかけているであろう相手にこの話題を出すことなんて出来ないはずだ。
おれたち相手に喜んでとはいかないだろうが、ある程度溜まってしまうものを吐き出すことは必要なんだろう。

「そうそう、それでいいの。ぼくらはサッチの恋を応援したいからこうやって…」
「へー、ああそうですか、そりゃありがてえ。」
「あ、信じてないでしょ。」
「…そもそもお前らはおれの味方なのか?」
「あったり前じゃん。ね、イゾウ。」
「ああ、その方が面白そうだからな。」
「お前らの本音それだろ!!」

ふてくされたサッチにおれとハルタは揃って笑う。
希望通り甘めに仕上げたものをハルタに出しておれも近くに腰を下ろすと、そいつはいかにも機嫌が悪そうに音をたててコーヒーを口にした。

「ね、あの後どうだった?たくさん話出来た?」

身を乗り出してハルタが話しかける。
そういや嬢ちゃんを家まで送ってやったんだったな。
…くくっ、思い出したら機嫌もましになったか?

「…まあな。」
「よかったじゃん、ぼくらのおかげだね。」
「どこがだよ!お前らが要らねえこと言ったせいでなあ…っ!」

そのせいで店じゃろくに話せなかったわけだしな、そりゃ文句のひとつも言いたくなるんだろう。
…が、言う相手は選んだ方がいいぜ?

「でも、ふたりきりになれる状況つくってあげたよ?」
「!、それは」
「ああでもしないとサッチ、あの日はきっと話せないままだったろうね。」
「っ、…けどなあ、」
「けど何?サッチのことだからどーせ話しかけても無駄だって諦めてたんでしょ。」
「……」
「それに、ぼくたちがその『要らないこと』を言ってなかったとしてもだよ?フィルと話は出来ただろうけど送るだなんて言えなかったでしょ?一応仕事中だったし。」
「……わかっ」
「あーあ、楽しくなかったのかなあ。せっかく大好きなフィルとドライブデー」
「だー!感謝してますどうもありがとうございましたあああ!!」

慌ててハルタの口を塞いだサッチ。
見事に言い負かされたことに加えて羞恥を煽られたせいか、大した言い争いもしていないのに息は切れているし動揺が顔の色にまで出てしまっている。
まあお前としては店でも話がしたかったんだろうが…サッチ、気づいてたか?嬢ちゃんもお前と話したそうにしてたぜ?
…ま、これは教えてやらねえけどな。

「…っはあ。でさ、せっかくふたりきりにしてあげたんだよ?どうだった?何か行動した?」

機会はつくった。
口が自由になったとたんに朗報を期待するハルタの質問攻め。
サッチも訊かれると予想していたのかその表情は言い渋るようなものではなく、どちらかといえば苦笑しているように見える。

「さすがにな。…週末、ふたりで会う。」
「わ!サッチおめでと!どこ!?何しに行くの!?」
「ケーキ食べに行く。」
「やったじゃん!フィルの喜ぶ顔見放題だ!」
「…まあな。」

自分のことのように喜ぶハルタと、その姿を穏やかな目で見るサッチ。
そういやふたりで出掛けるのは今回が初めてになるんだったな…っておいおいサッチ、今からそんなんで大丈夫か?

「…フィルの喜ぶ顔想像してるでしょ、顔まっ」
「見んな!!」
「わっ!?手どけてよ!邪魔!」

くくっ、まあ楽しんできな。
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