「…あ、あの、」
「ん?」
「本当によかったんですか?」

私としてはやっぱり気になってしまう。
仕事に対しては真面目だってビスタさんが言ってたし、無理矢理送らせちゃってる気がするし…何だか申し訳ない気持ちでいっぱい。
うかがうように隣を見ると、その人はすごく大きなため息をつく。

「やーっぱ信じちゃってたかあ。」

そのあとに「あーあ」なんて至極残念そうに付け足されてしまった。
あからさまにテンションの下がったサッチさんに当然私は驚いたわけで。
しかもその内容が何を指しているのかもわからず戸惑っていると、見かねたサッチさんがまたわざとらしく息を吐く。

「あいつらの言ったこと。もー…すっげえ寂しかったんだぜ?」
「え!?」

仕事中のサッチさんとはまるで違う、拗ねた子どもみたいな言い方。
あ、あいつらっていうのはきっとハルタさんたちのことだよね?
しかもサッチさんが寂しいって…何で!?

「、何で、」
「何で、って…そりゃあフィルちゃんと喋りたかったからに決まってるだろ?」

しゃ、喋りた…っ!?
いやいや、さも当然のことのように言わないでください!
告げられた内容にびっくりしてしまって何も返せないでいる私を横目にサッチさんは同じ口調で続ける。

「なのにあいつらとばっか喋っておれには話しかけてきてくれねえしさあ、」
「!わ、私そんなつもりじゃ、」
「わかってるって。…まああいつらの言葉信じちゃったあとだったし、おれから話しかけてもフィルちゃんに気つかわせるだけだろうなと思ったから。」

た、確かに…。
あの時サッチさんは気にしなくていいって言ってくれたけど、完全に気にしちゃってて話しかけない方がいいんだなって思っちゃったもんね。
…あれ?ということは…

「じゃあ…お仕事中でも話しかけていいってことですか?」
「もっちろん。」
「め、迷惑とか、」
「まさか。」

さっきとは一変していつもの楽しげなサッチさん。
ハルタさんたちと話すのはすごく楽しかったけど…やっぱりサッチさんとも話したいなあって思ってたから、そう言ってもらえて安心しちゃった。
どうやら私はハルタさんたちにからかわれただけだったみたい。
…でも、お客さんと話すのも仕事だって言ってたよね。
仕事、かあ…。
そう考えると少しだけもやもやするかも…

「…ああ、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。」

ぱっと隣を見ると、それに気づいたサッチさんが視線だけを私に向ける。
その視線はすぐに前を向いてしまったけど、口許は笑っていて。

「おれは仕事じゃなくてもフィルちゃんとお喋りしてえの。…おわかり?」

こんなことを言われて平常心でいられる私じゃない。
急にどきどきしてきて顔は熱くなるし、すごく恥ずかしくて頭がうまく回らないから返事もままならなくて。
更には一瞬遅れてやって来た、すごく嬉しいって気持ちが余計に私を慌てさせる。

「んー…返事なしってのはつまり嫌ってことかなあ?」
「!!ち、違います!私もサッチさんとお話しするの楽しいし嬉しいです!」
「ひひっ」

びっくりした…!
ど、どうしようこれ…恥ずかしいしどきどきするしサッチさんの方見れないよ!!
楽しげに笑うサッチさんとは対照的に、私は絶賛パニック中だ。

「じゃあ了承も得たってことで、」

どきどきも落ち着かないままにその人を見ることが出来たのは反射的なものだったし、今が夜で車内が薄暗いということがあったから。
続きもさっぱり読めない私に、その人が言ったことは。

「今度、おれとお出掛けしねえ?」
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