「やっぱりね。」

アキの反応は軽いものだった。
何でと理由を求められると思っていたから、私から出たのは気の抜けた声。

「だって私に話してたときも乗り気そうじゃなかったしね、断るだろうなとは思ってた。」

レポートのためにと参考書を捲る片手間、私へ淡々と説明をしてくれる。
私よりも私のことをわかっているらしかったアキには頭が上がらない。
自嘲の意味も込めて私がため息をつくと、それに反応するかのようにアキはレポートを書く手を止めてこっちを見た。

「フィル、最近どうなの?」

最近どう。
この言葉をアキが使えばその内容はひとつに限られてしまう。
…ハルタさんを思い出してしまうのはこの楽しそうな表情のせいだ。

「ど、どうって…」
「あの子の話断ったんだから他に何か思うところないの?聞かせなさい。それにほら、前大学に来てたふたり組の話もまだ聞いてないからね?」

ああ、これは多分スイッチ入っちゃったな…。
もうこれ以上レポートを書き進める気はないらしく、手の中にあったペンは机の上にころりと転がってしまっている。
他にって言っても…話すとしたらあの人たちのことしかないよね?

「えっと、前のふたり組は私も知らない人だったんだけどね、後から聞いたら少し前に私が知り合った人たちの同僚の人だったみたいで…」

少し前に知り合った人たち。
その言葉にアキが反応したのは言うまでもなかった。

ーー


「…へえー、ずいぶんと仲良さげなことで。」

話の途中でペンを握ったアキのノートには登場人物紹介図みたいなものが出来上がっていて、その中心には私がいるから相関図みたいなものにも見える。
正確な歳はエースだけしか知らなかった私は「それくらい聞いときなさい」と注意までされた。

「う、ん。普通に仲良くさせてもらってるよ…。」

にやにやと笑うアキに返す私の言葉は歯切れが悪い。
まあ私から異性、それも5人分の話が出たんだから、この食い付き様も仕方がないのかもと思っていたら。

「で、フィルはどの人がいいの。」
「へ!?」
「さすがのフィルでもその中に気になる人くらいいるんでしょ?ね、誰?」

さ、さすがのって何!
それに誰って言われても…私は選べるような立場じゃないから!

「ふたりで出掛けたこともあるみたいだし…やっぱりマルコさんって人?でも胃袋つかまれちゃってるサッチさんて人もなかなか…」

私が返す言葉に困っていると、アキはひとりで勝手に予想をし出してしまった。
ノートに書いた紹介図に書き込む内容を見るにアキの中では最有力候補がマルコさんで、その後はサッチさん。
イゾウさんにいたっては私の説明が少ないせいか未知数扱いになっている。
た、確かにふたりとも私に良くしてくれるし心臓うるさくなっちゃう時もあるし素敵な人だと思うけど!

「いや、それ以前に付き合ってる人がいるかもしれないし!」

全員のそういった話についてはほぼ知らないに等しい。
誰にしたって異性からの好意には困ることはないんだろうなとは予想がつくけど、彼女さんがいるかまでは聞いたことがなかった。

「じゃあ気になる人はいるんだ。」
「や!そういうわけじゃ」
「よし、まずはそれ聞いてきなさい。」

あ、ついでに歳もね。
言いながらびしりとペン先を向けてきたアキから私が逃れられる確率はとても低いと思う。

「…命令?」
「もちろん。」

にっこり笑う姿を見ると、思い出してしまうのはやっぱりハルタさんだった。
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