「あ、ここにいたんだ。」

まあこの場所が似合うといえばそうだけど。
ぼくらの尋ね人は閉店時間を過ぎた店の厨房にひとり立って手を動かしていた。

「…お前らに探されてるとか悪い予感しかしねえ。」

ぼくらの姿を確認するなり嫌そうな顔をする。
その反応が予想通りだったのか、隣のイゾウが可笑しそうに笑った。

「失礼なやつだな。」
「本当にね。サッチ、明日貸しきりにしてもいい?」
「依頼かよ。…じゃあ明日は無しになったのか。」

前にからかいすぎたお詫びとして、明日は店でフィルにご馳走することになっていた。
違う形でお詫びしてもよかったんだけどこの方が喜ぶだろうしね、…主にサッチが。

「…くくっ、拗ねんじゃねえよ。」
「なっ!?拗ねてねえ!」
「あはは、心配しなくても明日フィルは来るよ。」

やっぱり楽しみだったんだろうな。
慌てて否定するサッチの手元には明日使うであろう材料や試作らしいものがあるし、きっと下準備なんかもしていたんだと思う。

「…じゃあ何で貸しきりなんだよ。いくらなんでもやりすぎだろ。」

さっさと話を進めたいサッチからの質問。
嬉しくないことはないんだろうけど…フィルがサッチの特別だといってもただ普通に店に来るだけで貸しきりにするのは少しやり方が違う気がするし、フィルも遠慮するんじゃないかって考えだ。

「だって相談依頼受けたんだもん、フィルからの。」
「はあ!?な、何の!」
「内緒。まあぼくも軽くしか聞いてないしね。」

その軽くの部分を教えてあげてもいいんだけど、それはその時のお楽しみ。
フィルは明日サッチがいることもわかった上で相談があるって言ってきたんだから、少なくともサッチがいて困る内容じゃないんだろう。

「…依頼なら貸しきってもおかしくねえよな、サッチ?」

喜んでいるとも落胆しているともとれない微妙な表情のサッチにイゾウが確認をとると、ため息をつきながら了承された。

「よかったね、結果的に邪魔は入らないよ。」
「うるせえよ。…というか何でお前なんだ?」

サッチは少し不満そう。
省略された言葉をはめると「何でフィルはぼくを相談相手に選んだのか」になる。

「元々明日会う予定だったからでしょ。」
「…おれかイゾウでもいいじゃねえか。明日おれたちがいることは言ってあるんだろ?」

理由にはなり得るけど、それでも不十分だったみたい。
フィルに頼られたのがぼくだから面白くないんだな、きっと。

「おれはねえさ。嬢ちゃんはまだおれとの距離感をつかみかねてるみたいだからな。」

フィルはイゾウとの会話が極端に少ないからそのせいだろう。
初めて会いにいったときもこの前もぼくが喋ってたし、イゾウは基本見てるだけだからね。

「そういやお前話さねえよな。一線引いてんのか?」
「見るのも愉しいぜ?それに話したくなったら話すさ。」
「…何か質悪いぞ。」

イゾウもそれなりにフィルに興味があるみたいだし、今は話す役目はぼくに任せてるってところかな。
表情を曇らせるサッチへ返事をする代わりにイゾウは妖しく笑ってみせた。

「今回誘ったのはぼくだからね、おかしくはないでしょ?」
「まあそうだけどよ…」
「ハルタは嬢ちゃんと距離が近いからな、話しやすいんだろ。」

言葉を詰まらせつつもサッチは何か言いた気だ。
恥ずかしいから口にはしないだろうけど、多分自分だって距離は遠くはないってこととかじゃないかな。

「それにな、サッチ」
「…何だよ。」
「ハルタはお前と違って歳も近いんだよ。」

あ、イゾウそれ禁句だよ。
きつい一言を喰らって言葉を失ったサッチにぼくは少しだけ同情した。
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