「フィルがここにいるの初めて見たな。大学終わるの早かったのか?」
「うん、今日はお昼過ぎまでしかなかったから。」

…いやいや、ちょっと待て。
さっきの話もそれなりに衝撃的だったが…何でこのタイミングで帰ってくるんだよ。
とりあえずエースはいいとしてもだ、問題は。

「誰かが貸しきってるのは知ってたが…まさかフィルだったとはな。大胆なことするじゃねえかい。」
「か、貸しきったのはハルタさんです!」

ハルタのやつ、面白くなりそうだったからとかふざけた理由で呼んだんじゃねえだろうな。
マルコが彼女と話しているうちに視線をやると、ハルタもふたりが来るのは予想外だったのかおれと同じように視線だけで返してきた。

「何話してたんだよ。貸しきりってことは依頼か何かだろ?」

エースじゃなくても普通訊くか。
まあおれたちに話せる内容だから、彼女もふたりに聞かれて困るわけでもないだろうし…

「…フィル、ふたりにも話して良いよね?」
「はい、折角なのでふたりの意見も聞きたいです。」

おれからすれば、マルコのやつがどんな反応をするのか見れるってわけだ。
…さっき彼女から話聞いたときはまさかマルコに先越されたかって思って本当に焦っちまったし、やっぱり彼女から見ても変だったろうなあ。

「あのね、フィルが大学の友だちに告白されたんだって。」
「おー、フィルすげえな!」
「!や、別にすごくなんか」
「でしょ?フィルってばずいぶん好かれちゃってるんだよ?」

照れているらしくうつ向いた彼女の反応に満足そうに笑うハルタ。
それだけならいいものの…おい、こっち見んじゃねえ!
彼女は当然気づかないだろうが、さっきの言葉にはおれのことも含められてるんだろう。

「でね、一旦断ったんだけど粘られたみたいでさ。考え直して、もし嫌いじゃないんなら付き合わないかって言われたんだって。」
「…で、返事に困ってるってわけかい。」

がたりと椅子を引いて座るマルコに動揺や異変は見受けられない。
まあこいつは元々表情豊かじゃないし表に出さないやつだから実際は違うのかもしれねえけど。

「はい、相手のことは嫌いではないんですけど…。」
「そいつのことはよく知らねえけどさ、おれだったら断ってるな!」

いつもと変わらない調子のエースにみんなの視線が集中。
そのエースといえば、イゾウに一口分けてもらったケーキに舌鼓を打っている。

「どうして?」
「だって付き合うなら好きなやつとがいいじゃんか。」

…オニーサンはお前に拍手のひとつでも贈ってやりてえよ。
彼女の問いに何も動じることなくすぱっと理由を述べたエースには一種の尊敬に似たようなものを感じる。
彼女もエースの直球な言葉に少なからず驚いているようだし、納得しているようにも見えた。

「…すごいねエース、何だか感心しちゃった。」
「へへっ!なあ、マルコも何か言ってやれよ。」

褒められてむず痒くなったのか、それを誤魔化すように話をふるエース。
マルコも断るように言うとみて間違いないだろうが…気になるのはその理由だ。
意見を待つ彼女に見つめられてもマルコは顔色ひとつ変えず、おれのように視線をそらすこともない。

「…フィルは一度断ってんだろい。じゃあもう答えは出てるのと同じなんじゃねえか?」

おれもそう思いはしたし、彼女の中では返事は一応決まっているのだろう。
話をする彼女を見ていると確かに返事に困ってはいるが、それは自分に好意を寄せてくれている相手を断ることを前提にして彼女が感じているであろう相手に対する遠慮や申し訳なさといったものから来ていると考えられる。

「それにそいつはフィルよりも自分のことが大事らしいからな、止めとけ。」

マルコだったら「そんな未練ったらしいやつ相手にしてねえでおれと付き合え」くらい言うんじゃねえかと思ってたんだが…流石にそれはないか。

「おー、マルコもまともなこと言うんだ…いてっ!?」
「うるせえよい。…フィル、」
「?」
「断りづれえならおれがそいつに言ってやろうか?」
「じ、自分で言います!」

…んなこと「おれのモンに手え出すな」って宣言しに行くのと同じだからな、冗談にしてもそれは勘弁してくれ。
にしてもさっきの言葉…暗に自分なら大事にしてやれるって言ってる気もするんだが深読みしすぎか?
あー、どうも考えが読めねえ。

「何だか話がまとまっちゃったけど…フィル、これで解決ってことでいい?」
「はい、ありがとうございます。」

おれの悩みも何とかならねえもんかな。
意思が固まってどこかすっきりした表情の彼女を眺めながらそんなことを思った。
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