あの時は…お世話になることはないと思ってたんだけどなあ。

「…あの、ハルタさんっていらっしゃいますか?」

友だちに相談したその日の夕方。
家に帰った私は携帯を手にすると、若干緊張しながらとあるところに電話を掛けた。

「ああ、いるぞ。少し待っていてくれ。」

電話に出た人がジョズさんでよかった。
知っている人だったから安心したし、ジョズさんも私のことをある程度知っていたから特にあれこれ聞かれることもなく目的の人物に代わってもらえたんだと思う。

「はい、ありがとうございます。」

お休みとかだったらどうしようかと思ってたんだけど…運の良いことにハルタさんは会社にいるみたい。
しばらく鳴っていた保留音が途切れ、代わりに聞こえてきたのは軽やかな声。

「フィル、お待たせ。」

ご指名ありがとう。
続けられた言葉に私が慌てるとハルタさんはくすくす笑いながら久しぶり、と付け足してきた。
や、やっぱりからかわれてた…!

「それで、どうしたのかな?」
「…約束、今週の金曜でしたよね。」

実は前のときに予定を合わせてたんだ。
ちなみに今日が火曜日だから約束は三日後ということになる。

「もしかして都合悪くなった?無理しなくてもまた今度でいいよ。」

ハルタさんはさらりと気遣ってくれようとしたけど、今日電話を掛けたのはそういった理由ではない。
違うということを伝えると、心底不思議そうな声で聞き返された。

「その日なんですけど、何でも屋さんに相談にのってほしいことがあって…。」

相談内容はもちろん今日友だちに話したのと同じこと。
名刺を渡されたときの、恋愛相談もやってるからって言葉を思い出す。
成功率は100%らしいし…きっと良い意見をくれると思うんだ。

「…それは依頼ってことかな?」
「はい。…大丈夫ですか?」

相談内容は小さいにしても…依頼するからには予約してた方がいいのかな。
そう思って電話をしてみたんだけど、初めて何でも屋を利用するということで私が少し緊張しているのが伝わったのかハルタさんは軽く笑って。

「うん、大丈夫だよ。でもわざわざ依頼って形にしなくても良かったんだけどな。」

ほっとしたのも束の間。
えっ、と反射的に私が聞き返すと。

「相談にのるのは友だちとして当然のことでしょ?」

今のハルタさんは多分あのお得意の表情になってるんだと思う。
すごく嬉しいんだけど…表情まで想像がつくから余計に気恥ずかしい。

「あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。ちなみに相談の内容は?」

予想はしていたけど、いざ聞かれると言葉に詰まってしまうのは仕方がないと思うんだ。
ハルタさんとはこの前そういったことに近い話をしたわけだし、やっぱり恥ずかしさはある。
…でも、それを言っていたら始まらないから。

「一応、恋愛相談なんですけど…。」

ハルタさんなら絶対面白がるだろうなと思ってた。
少したどたどしく伝えると、次に返ってきたのは。

「…フィル」
「?、はい。」
「そのお悩み、しっかり解決させなくちゃね。」

マルコさんとかの方が安全だったかも。
一際楽しそうな声を聞いてそんな考えが頭をよぎったけど、取りあえず熱心に相談にのってくれることは間違いなさそうだと思った。
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