「フィルちゃん、」

今日の講義はこれで終わり。
さて帰ろうかなと思っていたところで不意に名前を呼ばれ振り返ると。

「…ちょっといい?」

何度か話したことのある、私と同じ回生の男子。
うなずいたけれど、どうしてか何も喋り出してくれない。
講義の終わった教室からは学生が出ていき、しばらくすると残っているのはふたりだけ。
気恥ずかしそうにする目の前の相手にさすがの私でもこれから何を話すつもりなのかある程度予想がついた。

「…あのさ、おれ…」

ーー


「…それから、何て言われたの?」

どこか含み笑いをしつつ目を輝かせたアキが詰め寄ってくる。
アキはこういう話が大好物なんだ。

「ふ、普通に…好きだって。」

この話を持ってきたのが私だから正直に言うと少し高めの声で騒がれた。
な、何か恥ずかしい…。

「で、性格いいし同学年の女子からも割りと人気の男子に告白されたフィルさんは何て返したのかな?」
「その言い方!」
「ごめんごめん。…それで?」

アキの興味は私の返事に集中しているらしく、謝罪もそこそこに含み笑いは止む気配がない。

「か、考えたことなかったし断ったんたけど…」
「けど?」
「…もう少し考えてほしいって言われた。」

突然の告白を受けたのは昨日のこと。
今は大学内にあるカフェでアキに相談中なのだ。

「他には何か言われてないの?」
「、もし嫌いじゃないなら付き合わないかって…。」
「んー…フィルは嫌いじゃないんでしょ?」
「そ、それはそうだけど…」

相手のことは嫌いじゃないけど、かといって好きでもない。
私の中では同学年の男子、もしくは友だちというざっくりした枠組みに入る。
何度か喋ったことがあるくらいで相手のことをよく知っているわけでもないから何とも言えないのだ。

「…でも、だから付き合うのってどうなのかな…。」
「…まあお試し期間って感じかもね。付き合ってるうちに好きになるかもしれないでしょ?」

そんなものなのかな。
こういった形で入る恋愛の仕方もあるんだとは思うけど…どうせ付き合うなら好きな人とがいいと考えてしまうのは私が恋愛初心者だからかもしれない。

「最終的にはフィル次第だけど…他の誰かにも意見聞いてみたら?」

私はそんなに悪い話じゃないと思うけどね。
そう付け加えられてひとまずお礼を言うと、結果はちゃんと教えてねと楽しそうに念を押される。

(他の人の意見、かあ…。)

私の頭に浮かんだのは、それはもう人生経験が豊富そうな人たちだった。
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