「フィル、こっからは間違えんなよ?」
「う、うん。」
「っし、…ただいまー!」

車内の会話では結局敬語が入り乱れてしまったので、マルコさんの家を再スタートの場に決定。
ただいま、とドアを開けて入っていく姿は本当に自分の家に帰って来たかのよう。

「そこはお邪魔しますだろい。もう適当に始めて…」

奥から出てきたマルコさんと目があった。
来る予定のなかった私を見つけて少し驚いているみたい。

「こ、こんばんは。」
「来る途中で会ったんだ。だから連れてきた!いいだろ?」

説明を受けるとマルコさんは表情を緩ませてああ、と短い返事をくれた。
嫌そうにされなくてよかった…!

「ほらな、大丈夫だったろ?」
「うん、エースさ…の言う通りだった。」
「あ!…まあ今のは見逃してやるよ、おまけな?」
「ありがとう。」

少し間違えてしまったけど何とかお許しをもらうことができた。
ふたりで小さく笑いあっていると、マルコさんが私たちの間に起こった変化に気づいたみたいで。

「ずいぶんと仲良さそうじゃねえかい。少したどたどしいけどな。」

可笑しそうにくつくつと喉を鳴らされ少し恥ずかしくはあったけど…でもその表情は優しい。
何だか応援されてるみたいだ。

「これでも大分ましになったんだぜ?最初の方なんて間違えすぎてて逆に面白かったもんな。」
「!あれはまだ言い慣れてなかったから、」
「いい加減上がったらどうだい。先行ってるぞ。」

苦笑して背を向けたマルコさん。
残された私とエースはぱたりと顔を見合わせたあと、慌ててその背中を追いかけた。

ーー


「サッチただいまー!」
「お帰りー。まあおれの家じゃねえけ…どおお!?」

リビングにいたのは缶ビールを片手に持った上機嫌そうなサッチさん。
軽い声でエースに返事をしたサッチさんなんだけど、私を見つけるなりすごく驚いた顔をされて。
マルコさんよりリアクションが大きかったせいか私までびっくりしてしまった。

「こ、こんばんは…。」
「な、何で!?フィルちゃん今日来るって言ってた!?」
「来る途中に出会ったから連れてきた。」
「急にごめんなさい、えっと…」
「いや、いいよ!?いいんだけど、」
「じゃあ問題ねえな。ほらフィル、箸と食器と…」
「わっ、ありがとう。」
「ちょ!?け、敬語は!?いつの間にそんな」
「サッチ酒が切れた。」
「マルコは黙ってて!」

座るなり料理に手をつけ始めたエース、足技でお酒を要求したマルコさんに渋々ながらも素直に従うサッチさん。
前と変わらない風景だ。

「フィル、ほはえもふぁはく」
「食いながら喋るんじゃねえよい。フィル、お前も早く食べろだと。」
「フィルちゃん、足りなかったら遠慮せずに言えよ。」

急に行ったら困るかな。
そんな心配はすぐに消えてなくなり、私はいつもより少し大きめに返事をした。
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