「電車か…久しぶりだねい。」

今日はマルコさんと苺ケーキの専門店に行くんだ。
お店がある場所は車じゃ行きにくい場所らしく今回は電車で向かうことにしたんだけど、休日の電車は思っていたよりも乗客が多くて混んでいて。
つり革をつかんだ立ち姿も様になっているマルコさんがぽつりと呟いた。

「あ、あの…マルコさんはそんなに乗らないんですか?」

私は背が低いからつり革を持つと余計に疲れるんだ。
斜め上のマルコさんを見ると曲げられた腕にはまだ余裕がある。
背が高いのもずるいけど…ただつり革を持って立ってるだけなのに何でこんなに格好よく見えるのかが私には不思議で仕方がない。

「普段は車だから今日みたいな時じゃねえと乗らねえんだよい。フィルは確か…電車通学だったか?」
「は、はい。そうです。」
「じゃあ満員電車とかも慣れてるんだろ?一度経験したことはあるが…あれはもう遠慮したいねい。」
「仕方ないですけど結構疲れますもんね、あれ…。」

それで切符買うとき悩んでるように見えたんだ…。
私は大学へは電車通学だから慣れてるけど、普段乗らなかったらそうなっちゃうよね。

「…フィル、何で緊張してんだい。」

サッチさんもそうだけどマルコさんも私の変化に毎回すぐ気づく。
そんなに分かりやすいのかな…。

「!えっと…」

別に緊張してる訳じゃない、ただ…ちょっと気まずいだけ。
それもそのはずで…電車内の女性の視線がマルコさんに集中してるんですよ!
マルコさんはそんな好意の視線に気づいていないのかそれとも興味がないのかはわからないけど…別段気にする様子もなく私に話しかけてくるものだから。

「その、色々と…。」

マルコさんと女性の方々の両方に何だか申し訳ないやら、でもどうしようもないやらで結局気まずいというわけだ。

「くくっ、ここじゃあ話しにくいか?それなら…あとでゆっくり話してもらおうかねい。」

ちょ、そんな笑ったりしたら…ほら!あそこにいる女性とか絶対マルコさんに心奪われてるじゃないですか!

「…はい。」

…はあ、何もしなくても好意を寄せられる人ってみんなこうなのかな…いや、ただ単にマルコさんが少し変わってるだけなのかもね…。

ーー


電車を下りて徒歩十分ほどでお店に到着。
もちろんその間に電車の中での話を喋らされた。
理由を言ったら絶対笑われると思ってたんだけど…それは大間違いで。
言った直後はきょとんとした顔をしてたんだけど、そのあとふっと笑って「フィルが気にすることじゃない」って言ってくれたんだ。
それは嬉しかったけど…マルコさんって恋愛とかには無頓着なんじゃないかって思えてきちゃったよ…。

(て、天国だ…!!)

店内に入った瞬間から私の大好きなにおいがするし、ショーケースには苺を使った様々な種類のケーキがずらりと並べてある。
マルコさん…今日誘ってくれて本当にありがとうございます!

「…ほらフィル、感動してねえで選べよい。」
「!、はい!」

内心はしゃいでいる私を隣で見ていたマルコさんはくつくつ笑う。
ちょっと恥ずかしいけど…最初のころに比べたら大分ましになったと思うな。

「くくっ。…決められそうかい。」
「ちょ、ちょっと待ってください!今すっごく迷ってて…!」

ケーキ選びはいつも真剣そのものだ。
お店に着くまでに何にするか大体決めてたけど…いざ目の前に並べられると用意していた考えはすぐ揺らいじゃった。

(苺だったらやっぱり王道のショートケーキかな…でもミルフィーユもおいしそうだよね。)

二択までには出来るんだ。
問題はこの後。
口元に手を当てて悩んでいると、マルコさんが声をかけてきた。

「フィル、どれで迷ってるんだい。」
「え?…ショートケーキとミルフィーユです。あ、マルコさんはどっちがいいと思いますか?」
「そうだねい…」

少し考える素振りをしたあとにマルコさんが店員さんを呼ぶ。
あれ?どうかしたのかな…。

「えと、マルコさ…」
「じゃあタルトとショートケーキ、それとミルフィーユをひとつずつ頼む。」
「!」
「はい、かしこまりました。」

タルトはマルコさんが食べたいって言ってたからわかるけど…何で両方頼むんですか!?

「マルコさん、何で、」
「ミルフィーユはおれも食べたかったからねい。おれと半分、…それなら問題ねえよな?」

マルコさんは何でこんな格好いいことをさらりとやってのけるんだろう。
私が極力遠慮しないような方法を提案してくれたんだ。

「…ありがとうございます。」
「フィル、この場合の返事は?」
「…『はい』。」

二度目の返事にやっと満足したようでマルコさんはいたずらに笑ってくれた。
そのあと飲み物も頼んで席へ着こうとしたら、これまた休日だからか人が多くて。
カウンター席に座ったら、マルコさんが急に笑いだしたんだ。

「マルコさん?」
「…何か思い出さねえかい。」

言われてすぐに繋がった。
マルコさんと初めて出会ったときもカウンター席だったから、その時のことを言ってるんだ。

「懐かしいです。」
「おれもだ。」

ふたりで顔を見合わせて笑うのもあの時と一緒。
それに、今日もきっと楽しい時間になると思うな。
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