「はいよ、お待ちどうさん。」

エプロン姿のサッチさんが持っているのはフルーツサンドの乗ったお皿がふたつ。
私の分まで用意してくれたらしく、さらに言えばなぜかミックスジュースまでついている。

「え!?サッチさん!」
「ん?それくらいなら大丈夫だよな?」

あとに待つケーキを考えてか確かに私の分は量が少な目にしてあるけど…いや、そういうことじゃなくて!

「フィルちゃんすっげえうまそうに食べてくれるだろ?だから色々食べてほしいの。おれからのサービスな。」

カウンターに肩肘をつくサッチさんは少し上目づかい。
その言葉だけでも嬉しいのに、笑顔までつけるなんてずるすぎると思うんだ。

「…本当にいいんですか?」
「もちろん。ほら、早く。」
「フィル、遠慮しなくていいからね。サッチ、どうせ今日は奢りなんでしょ?」
「え!?」

何でもないように言うハルタさんに驚きつつサッチさんを見ると、きょとんとした目を向けられて。

「当たり前だろ?そもそもおれが誘ったしな。」
「だってさ、フィル。」

ハルタさんはにっこりと、でも面白そうに笑ってる。
前奢ってもらったときは一応理由があったけど…今回は何もされてないんです!

「や、サッチさんだめです!そんなの」
「はいはい、歳上の言うことには逆らわない。」

サッチさんは軽く流してそんなことより早く、と上機嫌で訴えてきた。
ハルタさんも私が食べるのを待ってくれてるみたいなのでこの場は大人しく引き下がることにする。

(…あとでちゃんとお礼言おう。)

「…ひひっ、どう?」

サッチさんがすごく楽しそうに訊いてくるから、やっぱり顔に出ちゃってたんだと思う。
もうばれてるにしても私が感想を言うとサッチさんはくしゃりと笑って嬉しそうにしてくれた。
フルーツはたくさん入ってるし生クリームはすっきりとした甘さですごく食べやすい。
毎回思うけど…サッチさんのつくるものは本当に全部おいしいんだ。

「あはは、フィルって本当幸せそうに食べるね。」

指の腹をぺろりと舐めておかしそうにハルタさんが笑う。
恥ずかしいけど…が、我慢できないんですって!

「…だっておいしいんですもん、仕方ないですよ。」

ごまかすために飲んだジュースもやっぱりおいしくて、抑えようとしたにもかかわらず結局はハルタさんに笑われる。
さらには「これも食べる?」なんて言いながら自分の分からひとつ差し出してきたので、私は全力で首を横に振った。

「…フィルちゃん、そろそろケーキ持ってきてやるよ。今日はラズベリーのタルトだぜ。」

その様子を可笑しそうに見ていたサッチさんからの嬉しい一言。
すぐに反応してサッチさんを見ると、ぱちりと片目をつむられた。

「私ラズベリー大好きで…!あの、すごく楽しみです!」
「サッチ、ぼくの分もよろしく!」
「わかってるって。…フィルちゃん、仕上げにちょっと時間かかるからハルタとお喋りして待っててな?」

まるで小さい子を相手にするような言い方だったけど、私はケーキが楽しみで気にはならなかった。
サッチさんが店の奥へと入るのを見ていると肩をとんとんと叩かれて。
振り向けばどこか楽しそうなハルタさんがじっと私を見ている。

「何ですか?」
「ねえ、フィルはマルコやエースとも話したんでしょ?フィルはふたりのことどう思った?」

こ、今度はエースさんについてもか…。
最近こういうのが多いなあなんて思って少し詰まってしまうけど、ハルタさんはどうにも目をそらしてくれそうにない。

「特にマルコとかさ、本当無愛想じゃない?」
「いや!そんなことないですし…すごく優しいですよ?」

私の言葉をハルタさんは意外だ、なんて表情で聞いてる。
でも嘘じゃないし…マルコさんって普段と会社では様子が違うのかなあ。

「例えば?」
「え?…話しててもよく笑ってくれますし、電話もメールもよくもらいますし…あ、今度マルコさんがおすすめのケーキ屋さんに連れて行ってくれるんです!」

一昨日、一緒に行かないかって誘われたんだ!
マルコさんにはこの前に友だちだって言ってもらったし、今度のお店は苺のケーキ専門店みたいだし…本当楽しみだなあ。

「…へえ。じゃあさ、エースは?」
「エースさんは…お兄ちゃんみたいです。私は兄弟がいないし歳もひとつ違いだから。よく話しかけてくれて元気で明るくて…あ、それに純粋ですね。」
「あはは、あと大食いってことも忘れちゃだめだよ?」
「そうでした。」

私とハルタさんは顔を見合わせて笑う。
エースさんには敬語禁止令出されちゃってるもんね、次こそはがんばってみようかな…。

「…じゃあフィル、ついでなんだけど」

急に小声になったハルタさんは一瞬だけお店の奥に視線を向けて。

「サッチのことはどう思う?」

このとき、ハルタさんの目の色が深くなった気がした。
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