今日は仕事が休みだから朝はゆっくり寝れるな、なんて思っていたのに。

「…ああ?誰だよ、こんな朝から…。」

携帯の着信音で無理矢理起こされた。
無視してやろうと思い寝にかかるが、しつこく鳴り続ける音にこっちが先に限界を感じ諦めて雑に携帯をつかむ。

「…はい、も」
「サッチおせーぞ!!」
「…何だ、エースか…。」
「つーか声ひどすぎ!」

目覚め一番のおれの声を聞いて笑っているのは友だちのエース。
歳はおれより大分下で、とにかく元気なやつだ。

「そんなに笑うなよ。…で、話は?」
「、そうそう!おれグラタンが食いてえ!」

思い出したように告げられたのは食べたい料理について。
端からすれば全くもって理解不能なわけなのだが、こいつと付き合いがあるおれには思い当たるものがある。
しかも嫌な方向で、だ。

「……」
「おれ肉たっぷりのグラタ「サッチ、おれだよい。」」

肉グラタンを主張し続けるエースに割って入った声。
携帯を取られたんだろう、聞こえてくるのは「何すんだよ!」と後ろで叫んでいるエースの声。
こんな特徴的な話し方するやつなんておれはひとりしか思い当たらねえ。

「…マルコも居んの?泊まり?」
「ああ。昨日の夜からおれの家にエースが遊びに来てんだい。」

マルコはおれと歳が同じくらいで少し気だるそうな、そりゃあもう特徴のある髪型をしたやつ。
そのマルコが一緒ということがわかり、ますます嫌な予感。
というか…もう確定か。

「なあ、グラタンってまさか…」
「サッチ、今から来い。」

あー、やっぱりかやっぱりですか。
いつものカンジからいくと、ふたりで遅くまで飲んでそのまま寝て、朝何かつくるのが面倒だからおれに電話しましたってところだろう。
しかも毎回ちゃんとおれの仕事が休みの日を狙って呼び出してくるところがマルコらしい。
…でもな、おふたりさん。
せっかくのおれの休日なわけだし、な?

「…マルコさん、おれまだ寝た」
「おれはお前のつくったモンが食いてえ。」

やだマルコさんったらイケメン、サッチさん惚れちゃいそう。
…じゃなくて。
電話越しからでもわかるほどの、拒否なんてさせねえってオーラがびしばし感じる物言いだ。
もう少し寝させてくれてもいいじゃない、だって今日は休みで眠いんだもの。
けど。
こうストレートに言ってくれんのは、料理をつくる側のおれからすれば素直に嬉しいわけで(朝イチから電話かけてきたり、おれの予定聞かずにいきなり飯つくりに来いって呼び出したりされても、だ。)
実際、ふたりともうまそうに食ってくれるんだ。

「…はいはい。今起きたとこだからすぐには無理だぜ?」

結局おれは今回もあいつら専属の料理人になるはめになった。
…まあ嫌ってわけじゃねえんだけどな。

「ああ、構わねえよい。材料は適当にあるから好きに使っ」
「あ、サッチ!ついでにお菓子つくってきてくれよ、簡単なのでいいからさ!」
「…マル」
「おれも食いてえ。」
「…はいはい。」

呆れたように笑えば、じゃあ切るぞなんて言われて通話は終了。
ベッドからのそりと起き上がり、ぐっと腕と背を伸ばす。

「材料あったっけなー。」

ぺたぺたと素足でフローリングの床を歩き、台所で冷蔵庫を物色。
…こりゃあエースの言うとおりかなり簡単なモンになりそう。

「…っし。やりますか。」

寝癖のついた髪をカチューシャであげ、おれは作業に取りかかった。
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