「楽しみだなあ、どんなお店なんだろう。」
土曜日の昼下がり。
初めての土地に戸惑いつつもわくわくしながら地図をたどる。
今からサッチさんのお店に行くんだ!
今日は朝からお店に入ってるからいつでも来て大丈夫だって言ってもらったし、心配事は何もない。
「…あ、路地に入るんだ。」
大通りとはお別れ。
人の流れも景色もだんだん落ち着いてきた。
でも…こういうところの方が雰囲気があっていいのかも。
「えっと、この辺のはずだよね…。」
サッチさんが言うには名前の書かれた看板は無いみたい。
その代わり、入り口に絵の描かれたプレートが掛かってるんだって。
ちょっと変わったドクロの絵だからすぐわかるって言われたんだけど…。
「…、ここ?」
あ、あれ?これって…完全にビルでしょ。
でもドアのところに掛かってるプレートってサッチさんが言ってたやつだよね。
私は絶対おしゃれな感じかレトロな喫茶店だと勝手に思っちゃってたから、こんな近代的な外観のビルが喫茶店とかちょっと意外だな…。
…けどこのビル相当大きいよ?
「入るのに勇気いる喫茶店だなあ…。」
サッチさんがやってるお店だからできるけど、私ひとりじゃ絶対入れないよね。
というか…まず喫茶店だってことが判断できないと思う。
外観だけだとどこかの会社とか…そういうビルにしか見えないんだもん。
…で、でも来たんだから入らないと!
「お邪魔しま…、!!」
ドアを開けてすぐ目の前には人が立っていた。
サッチさんより体格もよく、かなり大きい男性の出現に私は固まる。
「いらっしゃい。」
「…コンニチハ。」
驚きすぎて片言だ。
この人はサッチさんの友だちなんだよね…うん、歳も近そうだしそうなのかな。
ぱっと周りを見ると中は喫茶店というより大人っぽいバーみたいな雰囲気だ。
「あの…サッチさんはいらっしゃいますか?」
と、とりあえず知っている人に会いたい!
そんな願いからか緊張してたわりにはスムーズに言えたと思う。
「…ああ、話は聞いている。すまないが今サッチは出ていてな…少し待っていてくれるか。」
「は、はい。」
ちょっと残念だけど仕方がないよね、大人しく待ってよう。
案内されたのはカウンター席。
棚にはお酒やらグラスがたくさん並べてあるし、店内もほんの少し薄暗くて余計にバーっぽく見える。
(…何だかわくわくする。)
サッチさんはリーゼントで仕事するのかな…いや、前みたいに後ろへ上げてるのかな。
初めてのお店の雰囲気や仕事をするサッチさんを想像してたら何だか楽しくなってきた。
しばらく店内を見渡していると後ろからドアが開く音が聞こえて。
サッチさんかな、と思って期待しながら振り返ったら。
「あっ、」
「あー!フィルだ!」
入ってきたのはなんとこの前大学で奇妙な出会いを果たしたハルタさんで、その後ろにはイゾウさんの姿もあった。
こんなところで会うなんて思ってもいなくて、びっくりしたまま駆け寄ってくるハルタさんと向き合う。
「久しぶり!あ、髪切った?」
「、はい、少しですけど…。」
前と変わらずにこにことした表情で話すハルタさん。
一度しか、それもあんな短時間しか会ってないのに髪のことに気づくなんてすごいなとか、ふたりはここが喫茶店ってことを知ってるんだとか、もしかしたらこのお店の常連さんなのかなとか…次々と考えが巡る。
笑顔を絶やさないハルタさんは上機嫌らしくて、ひょいと私の隣の席に座ると。
「嬉しいなあ、わざわざ来てくれたんだね!」
「え?」
「依頼でしょ?まかせて、何でも解決しちゃうから!」
…ど、どういうこと?
依頼って…今日はサッチさんのやってる喫茶店にお茶しに来たんですけど…。
話がさっぱりな私の様子を見て、ハルタさんはきょとんとした表情。
「…もしかしてフィル、マルコやサッチから何も聞いてない?」
何でマルコさんとサッチさん?
というか…そもそも知り合いなの?。
そう思いつつ恐る恐るうなずくとハルタさんはさっきの表情から一変、にっこりと笑って。
「ようこそ、『何でも屋 白ひげ』へ。」