今日送ってくれたのはマルコさん。
サッチさんはおれが行くって言ってたんだけどマルコさんが阻止したんだ。
「お前とふたりにさせるとフィルに何を吹き込むかわからないから」だって。
一応、三人で話してるうちにマルコさんへの気まずさはなくなったんだけど…。

「本当、本当ですって。」
「あいつに口止めでもされたかい?」

帰りの車内。
サッチさんに具体的にどんな内容を吹き込まれたのかってマルコさんに問い詰められて。
でもあれはサッチさんの嘘だったからマルコさんの過去の異性関係の話は聞いてませんって正直に答えたんだ。
でも。

「されてないです!何もないですから!」
「じゃあ何だって言うんだい。」

それなら一体何の話をされたんだって訊かれちゃって…現在私が完全に劣勢。
サッチさんの時もそうだったけど私こういうの本当にだめなんです…。

「いや、それは…」
「おれに隠し事ができると思うなよい。」

ハンドルを握っててもマルコさんの目線は私に向いている。
ちゃ、ちゃんと前見てください!

「こ、こればっかりはちょっと…!」
「フィル。」

こういうときに限って赤信号。
名前を呼ばれてしまえば私に拒否権というものは存在しない。
ああ、私ってば本当マルコさんには敵わないんだ…。

「…絶対笑いません?」
「ああ、笑わねえよい。」
「絶対からかいません?」
「ああ、しねえよい。」
「絶対、絶対ですか?」
「…ああ、わかってるよい。」

念押しを重ねる私にマルコさんは少しあきれた様子でため息をついた。
これだけ言えばマルコさんも守ってくれるとは思うんだけど…

(…で、でもやっぱり無理!)

だって…私がマルコさんを好きなんじゃないかとか、マルコさんが私を好きだったらどうするとかっていう恋愛話をしてましたなんて…恥ずかしすぎて言えません!
私がひとり葛藤していると見かねたマルコさんが深く息を吐いて。

「笑わねえしからかいもしねえし…あいつにも言わねえ。約束は守るよい。…ほら、大人しく教えたらどうだい。」

ここまで言われてしまってはさすがに私も拒否できない。
もう仕方ないよね、軽くだけ話して切り上げようかな…。

「…れ、」
「れ?」
「恋愛についての話をちょっと…。」
「…そうかい。で?」
「え?」
「目をそらしたってことは、つまりおれに関係する話が出たってことだろい。」

くうっ、そんなに追求しなくてもここは終わりでいいじゃないですか…!
心なしかマルコさん楽しそうだし…。
マルコさんはそれ以上何も言わないんだけど、目で「早く続きを教えろ」って言われてるのがわかる。
…はあ、どうせ私は逃げられないですよ。

「…ぜっ」
「わかってる、笑わねえよい。」

完全に予測されてた。
…何て言おう。
なるべく恥ずかしくなくて、嘘じゃない言い方。
必死に考えている間マルコさんは特に急かす様子もなく、ただ待っていてくれる。
きっと私が正直に話すってわかってるからだ。
…こういうところ、優しいよね。

「…マルコさんのこと、どう思ってるんだって訊かれて…。」

やっぱり恥ずかしいけど…これでいいよね、嘘じゃないし。
うん、大丈夫。

「…へえ。で?」
「は、はい?」
「何て答えたんだい。ぜひ教えてほしいねい。」

にやりと片方の口角を上げてマルコさんが訊いてくる。
動揺する気配すらないし余裕たっぷりだ。
本人に言えるわけないでしょ!?
恥ずかしすぎます!

「い、いや!本人を目の前にしてはちょっと」
「あいつには教えたんだろい?あいつから聞き出されるのと今自分で言うのと、どっちがいいか選ばせてやるよい。」

…一瞬で二択に持っていくマルコさんってすごいよね。
しかもどっちにしてもばれちゃうし!

「知らないままっていう選択肢は…」
「ねえな。…まあその場合フィルはおれが好きだってことに」
「!?い、言います!言いますから!!」
「くくっ。」

け、結局全部言わされるはめになった…!
でも恥ずかしい勘違いをされるよりましかなあ…。
深呼吸を何回か繰り返し、さっきからうるさい心臓を少しでも落ち着かせる。

「…憧れです。マルコさんは素敵ですし格好いいですし…大分からかわれもしますけど、すごく優しいです。大人の余裕みたいなものもありますし、服なんて何でも着こなしちゃうじゃないですか。ほ、他にもありますけど…マルコさんは憧れなんです。」

…い、言っちゃった!!
憧れの人にこんなこと言うの初めてだし…もう恥ずかしすぎてだめだ!
恐る恐るマルコさんを見るといつもの余裕あり気な表情は少しも崩れることなく、でも優しく笑ってる。

「…嬉しいこと言ってくれるじゃねえかい。」
「き、恐縮です…。」

ああもう、顔が熱い…!
マルコさんには今まで色んな方法で動揺させられてきたけど…今回が一番たちが悪いよ!!
言えてすっきりするどころか余計に恥ずかしくなっただけだし…。
…でもマルコさんなら笑うかなって思ってたのに…今はさっきと同じで本当に優しい表情なんだよね。
約束は守ってるにしても、何か意外だな…。

「フィル」

ちらりと様子をうかがっていたらいつもと変わらない調子で名前を呼ばれて。
見すぎてたかなと焦りつつ私が返すと。

「…おれは、フィルにとって良い友だちか?」

私からはあったけど、マルコさんからこういうことを訊かれたのは初めて。
マルコさんが私なんかを気にしてくれてるのが嬉しくて、でも本当びっくりしながら返事をしたんだ。

「よ…良すぎますよ!私なんかにはもったいないくらいです!」
「…そうかい、そりゃあよかった。」

言いながら私の頭を一度だけ撫でた手つきはすごく優しかった。
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