「や、だから、」
「フィルちゃん?隠し事はよくないぜ?」

笑った理由がそんなに気になるのか、サッチさんにさっきから問い詰められっぱなしだ。
そ、そんな大したことじゃないのに…。

「でも、」
「へえ?そう、おれに逆らうつもりなんだ?ケーキ、おいしくなかったのかなあ?」

うう、そんな言い方しないでください…!
もう逃げ場はないに等しくて、仕方がないので私は白旗を振ることにした。

「…ほ、本当に大したことじゃないですよ?」
「おれは気になるの。さ、大人しく教えなさい。」

満足そうに笑うサッチさんには悪いけど…期待するほどの話じゃないですよ?

「えっと、マルコさんと連絡先を交換したときなんですけど…マルコさん、赤外線の使い方がわからなかったんです。そのときのこと思い出しちゃって…。」

あのときのマルコさん…かわいかったなあ。
そんなことを思い出しつつサッチさんを見ると。

「…ふーん、そう。」
(あ、あれ?何か不機嫌そう…?)

こんな素っ気ない返事、初めてかもしれない。
やっぱりつまらなかったのかなと思ったけど…それにしては雰囲気が冷たすぎる気もする。
それに表情がなくなった感じが…

「…フィルちゃんさあ」
「!は、はい、」

びくりと肩が上がってしまった。
じとりとした目を向けられ余計に緊張しながら続きを待つと。

「やっぱりマルコのこと好きなんじゃねえの?」

前にも一度言われたこと。
…けど、前よりも言い方がきつい気がする。

「へ!?な、何でですか?」
「今日見てたけど…仲良さそうにしてたよなあ?それに見とれてなかった?」

な、仲良さそうって…普通にしてたと思うんだけどなあ。
あと見とれてたのって私が来てすぐのことだよね?でもこのことはサッチさんは知らないだろうし…。

「あいつに何か言われた時よく照れてたし。あとよく笑うし。」

確かにマルコさんはよくからかってくるから私はすぐ顔が赤くなるし、話すのも楽しいから笑いもするけど…で、でもサッチさんやエースさんと話してても笑ってると思うんだけどなあ。

「………に。」
「え?」

ぽつり。
サッチさんが何か呟いた言葉は残念ながら私には聞こえなくて。
聞き返すとサッチさんは少し面倒そうにもとれる表情をした。

「何でもねえ。…それでフィルちゃん、自覚ないの?」

な、何か恐い…いつものサッチさんじゃないみたいだ。
自覚って言われてもマルコさんは私の中で憧れだから…。

「…ない、です。私、前サッチさんに言われてからもう一度考えたんですけど…やっぱり違いましたよ?」
「憧れなわけ?」
「は、はい…。」

サッチさんの言い方も態度もやっぱりいつもと違ってきつく感じてしまう。
そのせいか私の返事も恐る恐るうかがうようなものになってしまった。
しばらく何か考えるサッチさんはまだ納得いかない様子で。

「…じゃあさ、マルコがフィルちゃんに気があるって言ったらどう?」
「はい!?マ、マルコさんがですか!?」
「そ。」

な、何を言い出すんだ?
マルコさんが?私に?…いや、ないでしょ!

「…いや、ないです!あり得ないですって!」

もしもの話。
マルコさんが私に気があるなら私はマルコさんを好きになるかという話なんだろうけど…そんなことあるわけないから話にならないです!

「…けど、」
「サ、サッチさん、どうやったらそんな考えになるんですか!?マルコさんですよ!?…ない、ないです!絶対あり得ないですから!私みたいなスタイルも顔もよくない普通の大学生に…マルコさんが特別視する要素がどこにあるっていうんですか!そんなのこっちが教えてほしいですよ!」

もう全部言い切った。
前もだったけど、私にしてはよく喋ったなと驚き半分恥ずかしさ半分でサッチさんの反応を待つ。
するとサッチさんはやっぱりびっくりしたような顔で私を見ていたけど、ふっと軽く笑って。

「あの…サッチ、さん?」
「悪い悪い、おれの勘違いだったみたい。」
「そ、そうですか…。」

表情も言い方も、もとのサッチさんだ。
とりあえず戻ってくれたことに安心して肩の力がすとんと抜ける。
サッチさんが何事もなかったかのようにコーヒーを口にしている姿を眺めていたら後ろでドアの開く音がした。
マルコさんが帰ってきたんだ。
で、でも今は何となく気まずいかも…。

「お疲れさん。弟生きてたかー?」
「まあねい、エースは必死に謝ってたよい。」

サッチさんはいつもと変わらない様子なので少し違和感は感じるにしてもやっぱり私は安堵する。
けどそのあとにマルコさんと目があってしまい、なぜか気まずくて目をそらしてしまった。

「…フィル?」

予想はしていたけどマルコさんが様子をうかがってくる。
な、何て答えたらいいの…!?

「や、えっと…」
「マルコ、今日はおれがフィルちゃん送ってくわ。お前の女の歴史話したらフィルちゃん引いちゃっ…でっ!?」

すごい音を立てて床に倒れるサッチさん。
びっくりしてマルコさんを見るとやっぱり悪そうな顔をして笑っていて。

「フィル、こいつの話したことは全部忘れな。それとサッチ、一分以内にケーキとコーヒー用意しろよい。」
「りょ、りょうかい…。」

サッチさんは困った私を見てあんな嘘をついてくれたんだろうけど…も、もう少し違う嘘はなかったのかな。
蹴られた腰に手を当て起き上がろうとするサッチさんを見ながら私は少しの違和感を抱えていた。
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