(うう、何か喋って…!)
私を待っていた人たち…ハルタさんとイゾウさんは名前は教えてくれたけど、それからというもの一言も喋ってくれない。
私をじっと見るだけなので気まずくて仕方がないし、どう声をかけたらいいかもわからないのだ。
(何だか恥ずかしくなってきた…。)
睨まれてるっていう感じじゃなくて。
背が私よりも少し高いハルタさんはどちらかといえば楽しそうにしてる気がする。
すごくきれいな黒髪が結ってあるイゾウさんは…な、流し目だけど怖い感じでもない。
で、でもそろそろ限界かも…!
「…あ、あの、」
「何、どうしたの?」
「…私に何かご用ですか?」
「うん、そうだよ。会いに来たんだ。」
ハルタさんって喋ると余計にかわいいな…なんて別のことを思いかけたけどそれは一旦置いといて。
「い、いや…それで何のご用で…」
「え?だからフィル、きみに会いに来ただけだよ?」
…え?
あ、会いに来たって…本当に会いに来ただけなの?
きょとんとするハルタさんを見るとどうやら嘘でもないらしく、今日は何か用件とかがあったとかじゃなくて本当に私を見に来ただけらしい。
「フィルがどんな子なのか、一度会って見ておきたかったんだ。」
どこか満足そうに、にっこりと笑うハルタさん。
私この人たちのことは全く知らないし…誰かから私のこと聞いてたのかなあ?
「本当はいろいろ話をききたいんだけど…今日は時間がなくてさ。」
「は、はあ…。」
「あ。そうそう、これ。」
ハルタさんは思い出したようにそう言って私に一枚のカードを差し出した。
慌てて受け取って見てみるとどうやら名刺のようなものだった。
「フィルにあげるよ。依頼成功率は100%だから困ったことがあったらそこに連絡してね。あ、直接事務所に来てくれてもいいよ?」
「え、あの、」
「内容の種類は問わないよ。もちろん恋愛相談もやってるから。」
片目をつむりながらの完璧な笑顔。
いきなり説明が始まって戸惑っていた私にとっては衝撃的すぎてその場で固まってしまった。
そんな私を見たハルタさんはくすくす笑って。
「じゃあね、フィル。連絡待ってるから。」
そう言って背を向け帰っていくハルタさんとイゾウさん。
結局イゾウさんは終始私を見てるだけで本当に何も喋らなかった。
「…な、何だったんだろう。」
本当に会っただけだった。
私はふたりの名前しか教えてもらってないのに…。
ふたりに関する他の情報といえばさっき渡された名刺のようなものに書かれていることだけなんだけど…
「『何でも屋 株式会社白ひげ』…?」
な、何だこれ…何でも屋?
聞いたことない会社だし…余計にわからなくなった気がするぞ?
「…悪そうな人たちには見えなかったんだけどなあ。」
ふたりが帰っていった方を見ながらそう呟くと、私はまた視線を手元に戻すのだった。