(サッチさんのチーズケーキ、本当においしかったなあ…。)

我慢できなくて貰ったその日に半分と、翌日に残り半分を食べて…うん、本当においしかった。
食べる前から幸せだったし、食べたらもっと幸せだったもん。
次に会った時でいいからってサッチさんは言ってくれたんだけど、すぐにでもお礼と感想を伝えたかったくらいだ。
でも肝心なことに私はサッチさんと連絡先を交換してなくて結局言えずじまい。
マルコさんなら知ってるんだろうけど…サッチさんがあんな話をしたせいでいざメールをしようとしたら何だか色々考えちゃって恥ずかしくなって…それで日も経っちゃって結局聞けずじまい。
…い、いや!マルコさんはあくまで憧れですから!

(そういえば…何であんなこと訊かれたんだろう?)

訊かれたときは特に何も思わなかった。
でも時間が経ってから改めて考えてみると、訊かれる理由が見つからない。
…私の態度でマルコさんのことが好きっていう風に見えたのかなあ。
そんな態度とってたっけ…?
どきどきもしたし、緊張もしてた。
でもそれはサッチさんを相手にしたときも同じだったはず…あれ?
同じ…だったよね?

(サッチさんは話すたびに印象がどんどん変わっちゃってて…それでかなあ。)

サッチさんは私の中でどんどん印象が変わっていく。
話すたびにいろんな面が見えてくるし、私のサッチさんへの関わり方も大分変わったと思う。
何だか話しやすくなったというか…壁が一枚なくなったみたいな。

(…うん。この前の帰りの車の中、私いつもより自然でいられた気がす…)
「…講義は以上だ。帰っていいぞ。」

いろいろ考えてたら授業終わっちゃったよ…先生ごめんなさい。
授業が終わって生徒が席から立ち上がり教室を出ていくなか、特に急いで帰る必要もなかった私は人の波がおさまるまでしばらくの間そのまま席に座っていた。
しばらく経ったあとそろそろ帰ろうかなと思って教室を出たら、どこからかアキ声がして。

「フィル、いた!」
「お疲れ。どうしたの?」
「フィル、あの人たちと知り合い!?」

あの人って…どの人?
少し興奮ぎみに話すアキの表情はすごく嬉しそうというか…楽しそう?

「あの人たちって誰?何人?」
「ふたりよ、大人の男性ふたり組。すっごく格好いいしかわいいの!」
「…大人の男の人?」
「そう!私が帰ろうとしてたらその人たちに呼び止められてね、フィルのこと訊かれたの。もし知ってたら会いたいから呼んできてほしいって。」

えーっと…私の知り合いっぽい人でしょ?
で、大人の男性でふたり組っていったらエースさんは大人っていうより青年って感じだから…マルコさんとサッチさん?
格好いいのはマルコさんで…じゃあかわいいのって…サッチさん?
でもサッチさんはかわいいっていうより格好いい…あ、でも笑ったときの顔はすごくかわい…いやいや、何考えてるんだ私!

「南門のところで待ってるって。ほら、早く行く!」
「う、うん。ありがとう。」
「その後のこと、ちゃんと詳しく教えなさいよ!」

…な、何を教えればいいんだろう。
そう思いながらもアキと別れて、とりあえず南門へと向かうことにする。

(…大学生ってことは言ったけど、大学名まで教えてたかなあ?)

大学までわざわざ何の用だろう。
電話とかメールで言えないこととか?…いや、私の頭じゃ思い付かないや。
でもサッチさんが来てくれてるなら前もらったケーキのお礼と感想言いたかったし…ちょうどよかったかも。
…マルコさんの件、ちゃんと約束守ってくれてるかなあ。

(…あ、れ?)

南門。
そこにはスーツ姿の男性がふたり。
けど背格好は違うし、顔も違う。
マルコさんやサッチさんより…ずいぶん若い。
…私、この人たちとは会ったことないよ?

「…あ、あの…」
「、もしかして…きみがフィル?」
「はい、そうですけど…。」

艶があってきれいな顔立ちの男性と、かわいいのにどこか凛とした表情の青…年?

「はじめまして、だね。ぼくはハルタ。」
「…イゾウだ。」
「あ、えと…フィル、です。」

不思議な雰囲気の人たち。
もうすでに知られていることも忘れ、私はつい名乗ってしまった。
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