帰宅後、簡単に夕食を済ませて温度を高く設定した湯船に浸かる。
じんと染み渡る熱につい溜まった息が体の奥から出るが、おれはこの瞬間が結構好きなのだ。
芯まで温まってから風呂を終え、乱雑に髪を乾かしてベッドに沈んだ。
このままでも無理矢理眠ってしまえそうだが…何だろうな…声が聞きてえ。

「お、お疲れ様です、」

今日は電話するって言ってなかったからなあ。
少しばかりの動揺が声で伝わってきて、そんな些細なことにも頬が緩んだ。
いい加減慣れりゃいいのに…まあこういうのも今だけって考えるとまだ慣れてほしくないような…ああ、贅沢な悩みだ。

「お疲れ。今日また寒かったよなあ。」
「そうですよね。お昼過ぎに雪が少し降ってきて…」
「そうなの?こっちは…、!ちょっとごめん、」

予兆を感じ、咄嗟に携帯を遠ざける。
出来るだけ抑えたものの、咳をした音は残念ながら届いてしまったようで。

「大丈夫ですか?もしかして風邪」
「違う違う。全ッ然。ちょっとむせただけだから。」
「そうですか…?でもその、今日のサッチさんの声何だか」
「あー、あれだ。昨日疲れたついでに飲み過ぎて酒焼けしたのが残ってるんだわ、うん、それだ。」
「それならいい…いや、よくないですけど、でも…」

大丈夫だ、上手くやれば誤魔化せる。
騙している罪悪感はあるが、風邪をひいたと言ってしまえばフィルちゃんはきっと心配するだろう。
おれはそんなことで心配をかけたくはない。

「そんじゃ、そろそろ寝るかな。フィルちゃんも早く休むように。」
「!あ、サッチさ」
「説教は受け付けておりませんので。おやすみ。」

フィルちゃんが何か言おうとしていたが、強引に話を終わらせ通話を切る。
嘘をついてしまったことに後ろめたさを感じるも、必要なことだと自分を納得させて眠りにつくのだった。
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