「んー…」
それを自覚したのは二月も終わりを迎える頃だった
喉の奥が少しばかり気持ち悪い。
ここのところ気温の変化が激しく、それに加えて多少の睡眠不足もあったからだろう。
「どうかしたかよい。」
「いや、風邪引いちまったかなーと…。」
「流行ってるもんね。マスクしてる人多くなったし。」
「肉食えば治るって。」
「そりゃお前だけだ。」
風邪なんていつぶりだったか。
栄養面では気を付けて摂っている方だと思うし、体力に関してもそれなりに自信があるので一年に一回あるかないか、そんな程度のものだ。
とにかく、多少気を配りつつ食って休んでしていれば二、三日で自然と治るだろうと思っていたのだが…。
「ゴホッ、」
あれから三日後。
風邪は以前よりも悪化し、咳も患者特有のそれになってしまった。
体力が落ち、いつもと変わらない仕事量でも体がついてこなくなる。
「全然治ってないじゃん、大丈夫?」
「歳だな。」
「うるせェ、…げほっ、」
「病院行ったのかよい。」
「面倒だ。気合いで治す。」
病院に行く暇があったら早く寝たいし、そもそもおれは病院の待合室で待つのが苦手なのだ。
こんなことを医者に言おうものなら鉄拳のひとつでももらいそうなものである。
「病は気からって言うけどよ…限界あるだろ。」
「嬢ちゃんに看病してもらうんだな。」
その一言に周りが笑いながら賛同するので、睨み付けるように視線をやる。
からかわれることが気にくわなかっただとか、そんなんじゃねえ。
「お前ら、フィルちゃんにはおれが風邪ひいたって言うなよ。絶対に許さん。」
「何で?」
「…こういうことで心配させたくねえんだよ。わかれ。」
弱った姿なんて見せたくないし、見られたくない。
以前フィルちゃんが風邪をひいたときには、すぐ病院に行くようにと偉そうなことを言った記憶があるが…いや、まあ、おれは多分治るし、体力あるし大丈夫だ。
そう、おれは大丈夫なのだ。