「へー、フィルはおれのひとつ下か!」
「は、はい。」
エースさんが到着し、今はみんなでお鍋を囲んで晩ごはん中。
マルコさんとサッチさんの知り合いだから私はてっきり歳もふたりと同じくらいだと思ってたんだけど、実際は私と一歳しか変わらない人だった。
マルコさんが言っていた通りエースさんはびっくりするほどよく食べる、でもその割には身体が細くてこれまたびっくり。
会って間もない私にたくさん話しかけてくれるし気持ちのいい笑い方をするエースさんを見ていたら元気で明るい人なんだなってことがすぐわかる。
サッチさんとはまた別の明るさを持った人。
そんなエースさんのおかげで私にしては異例の早さで打ち解けられたと思うな。
「もー、さっきも言ったろ?敬語なんか使わなくていいって!」
「エース、フィルが慣れるまで待ってやれよい。」
「あ、ごめん。…サッチおかわり!」
「はいはい、ちょっと待ってな。」
そう言って立ち上がるとキッチンの方へ向かうサッチさん。
1時間で仕込みから何からやり終えるだけでもすごいと思うのに、お鍋だけじゃなくて他の料理もつくって出すサッチさんには本当に驚いた。
しかもどの料理もすっごくおいしいんだ。
「なあフィル、サッチにちゃんと謝ってもらったか?変なの食わされたんだろ?」
もうずいぶん食べてると思うんだけど、エースさんはまだ食べ足りないみたい。
口一杯に詰めた料理は手品みたいにすぐ無くなる。
「あ、はい!でもわざとじゃなかったみたいですし、私は別に」
「んなことねえよい。怒ったフィルがサッチにケーキ奢らせてたしな。」
「!?」
な、何言ってるのこの人…!!
隣に座っていたマルコさんを見ると、それはもう楽しそうな顔で。
見られていることに気づいたマルコさんが一瞬だけこちらに視線だけ移すも、にやりと笑みを向けられるだけ。
「お、フィル結構やるなあ!」
一方のエースさんは疑うことなくただ純粋に笑っている。
エースさん…もしかして信じちゃったの!?
「マ、マルコさん!」
「違ったか?…ああ、悪い。ケーキは二つの間違いだったねい。」
「違…ってはないですけど!でも違いま」
「はーい、ストップ。」
声と同時に、見上げていたはずのマルコさんが缶ビールに変わって。
ぱっと後ろを振り返ると片手におぼんを持ったサッチさんが立っていた。
な、何か不機嫌そう…?
「ったく…。奢らせたのはマルコ、お前だろ?」
ため息混じりに言いながらサッチさんはそのまま缶ビールをマルコさんに手渡す。
受け取ったマルコさんはくつくつと笑っていて、見るからに上機嫌だ。
「あれ、そうなの?」
「そうなの。ほら、エース。」
きょとんとするエースさんはやっぱり信じていたみたい。
何て純粋な人なんだ…。
今度はおぼんに乗せていた料理をエースさんに渡すサッチさん。
すごく嬉しそうにしたエースさんはお礼を言って受け取るとすぐに食べ始めた。
「で、フィルちゃんにはこれ。」
…あれ、私も何か頼んでたっけ?
そんな疑問は一瞬で消える。
サッチさんが目の前に置いてくれたお皿の上には確かに私がリクエストした玉子焼き。
「サッチさん…っ!」
サッチさん、ありがとうございます…!
焦げ目なんて少しも見当たらないしとにかく玉子のいいにおいがしてる。
サッチさんの料理全部おいしかったしこれも絶対期待できるよ…!
「遠慮すんなって。で、感想聞かせて?」
私のすぐ近くに座って自信たっぷりに言うサッチさん。
我慢できそうもないので私はお言葉に甘えて早速いただくことにした。
(や、やわらか…!?家でやってもこんなの出来たことないよ!)
……ああ、もう幸せっ!!
とろけるしふわふわだし味付け私好みだし…もうとにかくおいしいんだって!
サッチさん今日迎えに来てくれて本当ありがとうございます…!!
「おいしいです、すっごく!本当おいしいです!!」
「だろ?それ全部食べちゃっていいからな。」
全力でおいしさを伝える私に、サッチさんは嬉しそうに笑ってる。
そしたら「いいなー」なんて言うエースさんの声が聞こえて。
エースさんのお皿の上を見ればすでに空。
い、いくらなんでもちょっと早すぎませんか…?
「サッチ、おれも玉子焼き食べたい!」
「おれも。」
「お前らはいっつも食べてるだろ!?」
「「今日は食べてねえ。」」
わあ、すごくきれいにハモりましたね。
揃った声にサッチさんが折れたらしく、ゆっくり立ち上がる。
「…しょうがねえな、ちょっと待ってろ。」
そう言ってまたキッチンに向かうサッチさんはどこか上機嫌そうに見えた。