いつもならアラームが鳴っても布団にくるまって動かずな私だけど、今日は音が鳴るよりも早く目が覚めた。
起きて一番最初にしたことといえば、カーテンを開けたこと。
空は一面が灰色の雲で埋め尽くされていて、冷たい雨がしとしとと降り注いでいた。
今日はサッチさんとデートの日だ。
以前決めたときの予定では水族館に行くことになっていたけど、でもそれは当日の天気が晴れか曇りだったらの話で…。

「雨……降っちゃったよ?」

部屋には私ひとりしかいないのに、思わず疑問形で呟いてしまった。
言葉にしてから数秒後、やっと今日の予定を理解した私は落ち着きなく部屋を歩き回る。

(デート、デートだ、サッチさんの家でデート、)

いつもとは違う緊張感でいっぱいになって、心臓は忙しなく動き始める。
しんと静かな空間にいると余計に落ち着かなくなり、咄嗟にテレビをつけた。
ちょうど放送していた天気予報では、今日一日ほとんどの地域が雨だとのこと。
洗濯物を片付けたり、簡単に朝ご飯を食べたり、部屋の掃除をしてみたり…そわそわとしながらも朝を過ごしていると、予定通りサッチさんから連絡が来た。
当日朝8時の段階の天気で今日の予定を決定することになっていたんだ。

「も、もしもし、」
「…おはよ。」
「おはようございます、」
「……フィルちゃんとこって天気どう?」

サッチさん…ちょっとだけ元気ない?起きたばっかりなのかなあ。
そう思いつつ窓の向こうを見てみると、相変わらずどんより曇り空で静かに雨が降っている。

「…雨が少しだけ降ってます。傘さそうかなあってくらい…。あの、サッチさんのところは…」
「……」
「サッチさん?」
「ああ、うん……意味わかんねえくらいすげえ降ってる。音、聞こえる?」

携帯を外に向けてかざしたのか、聞こえてきたのは激しい雨音。
少し前までは雨の予報なんてなかったのに…何がどうしてこんな天候になってしまったのか。

「す、すごい音ですけど…大丈夫ですか?」
「一時間もすりゃ落ち着くって言ってたから…。」
「そうですか…。」
「「……」」

無言はだめです…!
でも…私も家デートに決まったからって慌てすぎだよね?
そ、そうだよ、普通にサッチさんの家に行って、普通に喋って、普通にごはんとかつくって普通に食べて、普通に遊んで…とにかく、今日は普通のデートの日で、その場所が今回はサッチさんの家っていうだけで…こんなに変に意識しなくていいんだから!
実は今日雨が降ってほしかったとか全然、全っ然思ってないし、間違っても、間違ってもサッチさんの家で何かあるかもとか考えたわけじゃないから!!

「…そんじゃ、まあ、とりあえず…今日はおれん家ってことでもよろしいでしょうか。」
「!は、はい。だいじょうぶです、」
「ああいや、その、本当に雨降るとか思ってなかったし別に水族館でもいいんだけど、」
「いえ!大丈夫です、サッチさんの家、行きます、」
「…ん。」

そのあとは短い会話を重ねただけで終わってしまう。
どこかぎくしゃくとしたやり取りは、私の緊張を更に増幅させるのだった。
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