(つ、ついに来ちゃった…!)

サッチさんが住むマンションは、あのスーパーから歩いて五分もかからないところにあった。
部屋の前で鍵を取り出しているサッチさんの後ろで、私は迫り来る緊張に必死で耐えている。
頭の中はぐるぐる回り、体はかちこちだ。

「よっと、…それじゃどーぞ。」

重そうなドアをサッチさんが開けてくれる。
サッチさんに続いて一歩中へ入ると、片付いていて清潔感のある玄関を視界にとらえることができた。
すぐそこにあるポールハンガーには帽子とコートがかけてある。

「お、おじゃまします、」
「はいいらっしゃい。あ、傘はおれのやつの隣でいいから。」
「わかりました、」

緊張のせいで何をするにしてもぎこちない。
限りなく慎重に傘を置いたあと、固い動作で靴を脱ぐ。
忘れずに靴を揃え終わると、そのままリビングに案内された。

(これがサッチさんの家…!)

私の部屋よりずっと広いその空間には、座り心地の良さそうな座椅子に、四角い白のテーブル、大きめのテレビに本棚もあって、床にはシックな色合いのカーペットが敷いてある。
じろじろ見ちゃだめだとわかってはいるんだけど…私の知らないサッチさん情報が大量に飛び込んできた今、見ないでいることなんてできないんだ。

「そんなに見ないの。掃除してねえのがバレるでしょ。」
「!ご、ごめんなさい。でも片付いてるしきれいです、」
「今日だけだって。普段はもっと散らかってるから。」

サッチさん…私が来るからって掃除してくれたんだ。
仕事が大変なのに申し訳ないなと思う反面、その気持ちが嬉しいなとも思う。

「さて…お腹空いた?空いてるならもうやっちゃうけど。」
「……空いてきました。」
「くくっ、何それ?」

サッチさんがつくってくれるオムライス。
そう考えると不思議なことにお腹が空いてきて…でもそのことがサッチさんのツボに入ったらしく、お腹を抱えて笑っている。
サッチさんが笑ってくれるのは嬉しいけど…ちょっとからかわれているような気がして複雑だ。

「だって本当に今空いてきたんですって、本当です、」
「わかったわかった。じゃあそこでゆっくりしててくれる?パパッとつくっちまうから。」
「え、あの、」

サッチさんは私に背を向け、そのままキッチンに向かっていく。
慌てて追いかけると、サッチさんはさっき買ってきた材料を出しながら不思議そうな顔を浮かべた。

「どしたの?いいよ、くつろいでて。せっかく来てくれたし。」
「落ち着かないから私も何かしたいです、あ、でも邪魔になるなら…」
「あのね、邪魔だなんて絶対言わねえから。…それじゃちょっと手伝ってもらおうかな?」

いつものデートもどきどきするけど、今日はまた違った緊張を感じてしまう。
初めての家デートはどんな結果になるんだろうか。
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