「サ、サッチさん」
「あーあー」
「受け取ってくださいってば」
「聞こえねえ聞こえねえ、ぜーんぜん聞こえねえ」

サッチさんは私からぷいと顔をそらして、わざと私の言葉を遮ってくる。
用意したお札を渡そうとしても、その手を押し返されるからまた同じことの繰り返しだ。
全く相手にされない私を、マルコさんとエースさんは笑いながら見ている。

「サッチさん、」
「だからいらねえって言ってるだろ?フィルちゃんはおれらみたいに酒飲まねえし、量も食べねえし。」
「そ、それだと私の気が済まないんです、」
「んー……」

サッチさんは困ったように頬を掻いて、思案するように視線を動かした。
ぐるりと思案すること数秒、サッチさんは諦めたように息を吐く。

「それじゃあ勝負でもする?」
「…勝負ですか?」
「そ。フィルちゃんが勝ったらそれ受け取ってあげる。」
「わかりました。それで何を…」

私が言い終わる前に腕捲りを始めたサッチさんは、そのまま自身の腕をテーブルに乗せた。
肘をつけて、手のひらは開いた状態で。
大多数の人はこれを見たら腕相撲を連想するだろうし、私ももちろんそう。

「……」
「さあ来い。フィルちゃん両手使っていいぜ?」
「勝たせる気あるのかよい。」
「もっとハンデつけた方が良くねえ?」
「だから左手使ってんだろうが。ほら、早くしよ?」

服が捲られて露になっている腕はとても太く、私の腕の二倍近くはあるんじゃないかと思う。
首をこてんと傾けるサッチさんの仕草に、私は悪意を感じるのだった。

ーー


「「サッチの勝ち。」」
「いやー危なかったなあ、こんな接戦になるとは思わなかったわー。」

どこがですか…!
サッチさんは私が奮闘する姿をしっかりと楽しんでいたし、途中もう片方の手で携帯を触っていたし、最終的には実況までし出すし…一通り楽しんだら最後は一瞬で勝負をつけたのだ。
私はこんなにくたくたなのに、サッチさんは息ひとつ切らした様子もない。

「も…もういっかい、もう一回だけ、」
「別にいいけど…さっきので疲れちゃったから今度は右使うぜ?」

疲れたとか絶対嘘ですよね!?
このままじゃだめだ、サッチさん相手じゃ絶対に勝てないし…そ、そうだ!

「じゃあマルコさん、マルコさんとさせてください、」

他のふたりも含め、突然指名されたマルコさんは少し驚いた顔をした。
エースさんとどっちにしようか迷ったけど…エースさんの方が若いし、力がありそうだなあと思ったんだ。
マルコさんはサッチさんよりも体が細いし、そんなに力があるっていう印象もないから…す、すごくがんばれば私でも勝てるような気がする、多分。

「ふうん?体力自慢のエースとやるより、体が衰え始めたマルコとやる方が勝てそうってことかな?」
「そ、そんなこと言ってません!」
「マルコはどうなんだ?」
「別にかまわねえよい。そんな風に言われちゃ黙ってられねえしな。」
「!だ、だから私は一言も」
「なら認めましょう。じゃあおふたりさん、用意して。」

マルコさんは飲んでいたお酒を置くと、何の気構えもなさそうに腕を出す。
果たして私は勝つことが出来るんだろうか。
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