天候に恵まれたおかげで、何千発もの花火が雲ひとつない夏の夜空を彩る。
けど今日は空だけじゃなく、真っ暗な海にも色とりどりの花火が反射して…その美しさに私たちは時間を忘れて見入ってしまう。
このお祭りを締めくくるに相応しい一際大きな花火には、観客から大きな拍手と感嘆の声が送られた。
それぞれが花火の余韻に浸りながらその場を離れていき、私たちもさっき見たばかりの花火の話を交えつつ、帰路につこうとする人の流れに続く。

「帰りの電車混むかな?」
「そりゃそうでしょ。これだけの人が一斉に帰るんだから。」
「だよね…でもアキは乗るんでしょ?」
「もちろん。」

お祭りの途中でアキにメールが届いた。
それはハルタさんからで、終わったらイゾウさんも含めてごはんに行こうというお誘いで。
アキには私もどうかと言われたけど、ちょっと考えて断った。
行きたくなかったわけじゃなくてアキのため…かな?私は自分の直感を信じることにしたんだ。

「フィルも帰る?」
「うーん…今乗って帰ったら疲れそうだし…それに最後にもう一回だけサッチさんのところに行こうかなって。」
「いやいや、止めときなさい。絶対怒られるから。」
「何で?」
「何でって…あの人なら『こんな時間にひとりでうろうろしてたら危ないでしょ!』って言いそうじゃない?」
「……」

…確かにサッチさんなら言いそうだ。
サッチさんは私に対して少し(というか大分)過保護なところがある気がしてならない。
あとは心配性…とまでは言わないけど、それに近い性格なのかなと思うこともある。
サッチさんには会いたいけど…友だちが言う通り、ここは素直に帰った方がいいのかもしれない。

「…じゃあおとなしく帰ろうかな。」
「そうしなさいそうしなさい。」

ーー


駅構内はすごい人の数で、駅員の人が何人も誘導に充てられている。
行きとは違う電車に乗るらしい友だちとその場で別れを済ませると、私は人の流れに逆らって駅構内から抜け出した。

(騙したみたいで罪悪感が…)

せっかく忠告してくれた友だちには悪いけど…やっぱりあそこへ行ってみよう。
仕事をしていたら話しかけずに戻るし、もう帰っていたらそれでいい。
ちょっと、ちょっとだけサッチさんの姿を見るだけでいいから。
そこまで遠くはないし、商店街をずっと進んでいけばたどり着ける。

(お祭りのあとって何か寂しいな…)

戻れば戻るほど人の数は減り、あんなに賑やかで明るかった場所も今は閑散としていて、心なしか薄暗い。
お祭り途中では周囲の音に紛れて聞こえなかった下駄の音も、この時間ではからころとよく響いた。
人の密度が減ったからかその分涼しく感じられ、時折首の背を掠めていく風が心地よくて。
少しぼんやりとしながら歩いていたせいか、前から向かって来ているのがあの人だと気づくのが遅かったのだ。

「…フィル、ちゃん?」
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