「ほら、渡すものあるでしょ。」
「!う、うん、」

まるでお見合い状態の私たちを助けてくれたのはアキだった。
当初の目的を思い出し、大事な荷物を抱え直す。

「何?何かくれるの?」
「暑いし熱中症とかもあるから飲み物を持ってきたんです、けど…」
「え!?すげえ嬉しい!」

サッチさんはぱっと顔を明るくしてくれて。
もっと違うものにした方が良かったかなと悩みもした分、これで良かったとわかり安堵の息がこぼれた。
いそいそと保冷バックを開け、サッチさんに用意したものを見せる。

「それじゃあ、スポーツドリンクと麦茶と炭酸と、それから露店で買ったこれ…あ、中身はカルピスなんですけど、どれがいいですか?もちろん全部でも大丈夫です。」
「……そんなに用意してくれたの?」
「選べた方がいいかなと思ったんですけど…い、要らなかったですか?」

私の説明を聞き終えたサッチさんの反応はあまり良くないというか…半分笑っているようにも見えるし、少し引いているようにも見えてしまって。
そして私たちの傍では必死に笑うのを堪えている(けど実際は堪えきれていない)ふたりがいるし…私だけ気合いが入りすぎている気がしてきて恥ずかしくなってくる。

「ふ、ふたりとも笑うの禁止!…サッチさん、やっぱりこんなに要ら」
「いいや、すげえ嬉しい。そんじゃ…これもらおうかな?」
「え、」

サッチさんは私が用意したものをどれも選ばず、なのにその手がつかんだのは私の両肩。
そしてそのまま自分の方に引き寄せ、腕の中に閉じ込めてしまった。
も、もしかして…私ってこと!?

「あ、あの…むぐっ」
「だって今日のフィルちゃん浴衣だしめちゃくちゃかわいいしどうしても会いたかったとかきゅんきゅんきたしさっきのだってあんなに用意してくれるとかかわいすぎるしあーもう本当テンション上がったし元気でだッ!?」
「お前が通報される側になってどうすんだよい。」

マルコさんは警棒を片手に持ち、サッチさんに対して軽蔑するような眼差しを向けている。
この目はたとえサッチさんでも容赦なく通報する目だ…。

「ってェ……フィルちゃんありがとな。これもらっていい?」
「はい。」

サッチさんはスポーツドリンクを取ると、さっそく口に流し込んだ。
飲み物三つ分をずっと持ち運ぶのは少し疲れたけど、こんなにおいしそうに飲んでくれたのを見ると持ってきて良かったなあって思うんだ。

「あ、よかったらマルコさんもどうですか?まだありま」
「はいだめー。こいつには差し入れとかしなくていいから。明日も暑いみたいだし、それはフィルちゃんが飲めばいい゛ッ!?」
「ありがとうな。助かるよい。」
「い、いえ…」

さっきと同じ部分を狙うんだから、マルコさんは容赦がない。
サッチさんが必死に倒れまいとしている中、マルコさんといえば何事もなかったような顔をして麦茶を取った。

「くっそ……フィルちゃん、本当にありがとな。」
「いえ。仕事中だったのにごめんなさい。」
「んーん、やっぱり会えてよかった。おかげで残りがんばれそう。」

私を安心させるように、サッチさんがにっこりと笑う。
サッチさんは優しいから気をつかってくれたのかもしれないけど、サッチさんがそう言ってくれたことが今は素直に嬉しかった。

「アキちゃん、フィルちゃんのことよろしくな。」
「任せてください。写真もばっちりですよ。」
「そういうことじゃありません……が、あとでデータをいただきます。」
「はーい。」

…アキは私の味方じゃなかったんだろうか…。
写真のデータは後で絶対に消させようと考えていると、サッチさんがひょいと近づいてきて。
私が持っていたカルピスのストローをぱくりと含んで、そのまま満足そうに味わった。

「そんじゃあな。人多いから気を付けて。」

ひらひらと手を振るサッチさんと、その隣に立って目で見送ってくれるマルコさん。
ふたりと別れて来た道を戻る途中、アキがこんなことを呟いた。

「…さすがサッチさん。」
「何が?」
「それ飲んだら間接キスになるでしょ?」
「……」

そこまでは考えてないと思う。
そう言いたかったけど、サッチさんならという考えが頭をよぎってしまい、私は結局口を閉じるのだった。
- ナノ -