「よく来たなフィル。入れよい。」

マルコさんの家へ到着。
部屋の大きさは全然違うけど、私と同じくマンションに住んでいるらしい。
チャイムを鳴らすとパーカーを着た少しラフな格好のマルコさんが出迎えてくれた。

「こ、こんばんは!お邪魔します。」
「ああ。」
「ちょ、マルコ!?閉めようとすんな!」
「チッ。…いたのかい、サッチ。」
「ひど!?お前が迎えに行けって言ったんだろ!」

このふたりにとってこういうのは挨拶の代わりなのかなあ。
前も言い合いはしてたけど…やっぱり楽しそうだなって思う。

「さっさと入れよい。…フィル、こっちだ。」
「マルコさん、おれの扱いがすっごく雑な気がするんだけど。」
「フィル、サッチに何もされなかったか?」
「は、はい!?」
「してねえ!つーか話を聞け!」

突然すぎて慌てる私の横でくつくつ笑うマルコさんにああもう、なんて言いつつ髭をなぞるサッチさん。
見れば見るほど仲が良さそうなふたりに私も少しだけ笑ってしまった。

「エースは今日仕事があってな…まあ適当に座って待っててくれよい。」

そう言ったマルコさんは携帯を取り出して部屋をあとにした。
案内されたリビングは広くて、家具はシンプルな雰囲気のもので統一されている。
他に入ったことなんてないからわからないけど…男性の部屋とは思えないくらいすごく整頓されててびっくりした。
わ、私の部屋よりきれいかも…。

「…フィルちゃん、緊張しすぎ。」
「えっ!…わ、わかりますか?」
「もうばっちり。」

マルコさんの家にあがらせてもらうんだ、私が緊張しないわけがない。
内心そわそわして落ち着かない私に気づいたのかサッチさんは可笑しそうに笑う。

「立ってないでほら、座って。」

すでにリラックスモードのサッチさんがテーブルをとんとん、と指で叩く。
ここに座れということらしいので、おずおずとサッチさんの左隣にお邪魔した。

「正座なんてしなくていいって。自分の家みたいにくつろいでればいーの。」
「や、でも、」
「あのなあ、パイナップル相手に遠慮なんて要らぶふっ!?」

突然出てきた果物の名前に私が疑問を持つ暇もなく、乾いた音と共にいきなり前のめりに倒れかけるサッチさん。
驚いて固まる私に、サッチさんの近くに落ちたスリッパが目にはいる。

「フィル、そいつとは喋るな。バカが伝染るよい。」

少し悪そうな笑みを浮かべてマルコさんがやってきた。
ス、スリッパを投げたんだ…。

「…ってえー!手加減無しか!」
「するわけねえだろい。…それからエースはあと一時間ほどで来るみたいだよい。」
「ひっでえ…。もしフィルちゃんに当たってたらどうすんだよ!?」
「おれが外すなんてあり得ねえよい。」

…こ、こういうのも日常的なのかな。
少し過激なやり取りに驚きつつも、ふたりの仲がすごくいいからできることなんだと無理矢理納得する。
スリッパ攻撃を受けたサッチさんを見ると、渋い顔をしながら狙われたらしい後頭部をさすっていた。

「…だ、大丈夫ですか?」

すごくいい音がしてたし、スリッパといえどもやっぱり痛いよね…?

「まあ、ね。…ありがと。」

サッチさんは少し困ったように笑って返してくれた。
最初の頃に感じていた怖さなんて嘘みたいだなって改めて思う。

「…マルコ、あと一時間だっけ?そろそろ始めるわ。」
「ああ、頼むよい。」

おもむろに立ち上がってリビングから出ていくサッチさん。
返事をしたマルコさんの方を見ると、理解できていない私のために説明をしてくれた。
エースさんはすごくお腹を空かせて来るみたいなので、来てすぐ食べられるように料理担当のサッチさんが仕度をするとのこと。
マルコさんも何か準備を始めるらしく部屋から出ようとするので慌てて私も立ち上がる。

「あの、何か手伝います。」
「ん?フィルは客だからな、座って待ってりゃいいよい。」

特に気をつかっている風でもなく、マルコさんは当たり前のこととしてそう言ってくれたんだと思う。
…でも。

「そ、それだと私が落ち着かないんです…。」

これが本音。
この状況でひとり待っていたら絶対に落ち着くことなんてできない自信があるのだ。
言い終わらないうちに私が視線を外すと、マルコさんはくつくつ笑って。

「わかった、…こっち来な。」

つい安堵のため息をこぼしてしまってまた笑われてしまったけど、私は上機嫌でマルコさんについていった。
- ナノ -