「…それでその荷物かよい。」
「用意しすぎだと思いません?一本あれば十分だって言ったんですけど…」
「せ、選択肢は多い方がいいと思ったの!」

こういう場合、マルコさんが私の味方をするわけがなかった。
くつくつと可笑しそうに笑いながら、マルコさんはアキに賛同する。
マルコさんは巡回の途中だったらしく、私たちの事情を聞いて案内をすると言ってくれたんだ。
仕事中だから場所だけ教えてもらえればと一度は断ったんだけど、そこまで遠くはないし面白そうだからという理由で一緒に行くことになった。
マルコさん…もう少しちゃんとした理由がよかったです…。
そうして歩き始めて10分ほどしたところで、マルコさんが足を止める。

「ああ、いたよい。あそこに立ってるだろ。」
「!」
「フィルだけ先に行ってきなさいよ。」
「おれたちはしばらく見てるよい。」

少し先の道には、マルコさんと似たような格好で誘導棒を手にしたサッチさんがいた。
人の波は少ないものの、道の真ん中に立って通行人の案内をしている。
絶対に面白がっているふたりを残してサッチさんの元へと近づいていくも、ただの通行人として認識されているためか、気づいた様子はまるでなくて。
自分の今の格好も相まって、声をかけることがたまらなく恥ずかしい。

「……ぁ、……」
「どうしました?何かお困りで…、っ!?」

私が縮こまっていたから、勘違いをしたサッチさんは親切心で声をかけてくれたんだけど。
その相手が私だとわかるなり仰け反るように驚いて…見間違いかというように何度も目を瞬いている。

「こんばんは…」
「う、うそ、フィルちゃん、?え??まじで??」
「ごめんなさい、仕事中に…でもどうしても会いたくて、その…」
「オーケー、ちょっと待って、おれ本当に気抜いてたから今動揺がすげえ、」

その動揺を表すようにサッチさんは私から体を背け、でも視線はちらちらとこっちを向く。
私が距離を詰めあぐねていると、後ろで見ていたふたりが助け船を出してくれた。

「こんばんはー。」
「せっかく来てんのに場所くらい教えてやれよい。」
「お前か…!」

第三者が来たことで、サッチさんは調子を取り戻したらしい。
変な話だけど、サッチさんがマルコさんに詰め寄る姿はいつもの光景だ。

「お前なあ!おれがどんだけ秘密にしてきたと」
「感謝はされても文句を言われる筋合いはねえよい。それよりもな、何か言うことねえのかよい。」

そう言いながらマルコさんは私の腕を引っ張って、サッチさんの真正面に来るようにした。
すると途端にサッチさんの目が泳ぎ、そして後ろのふたりは笑うとまではいかないけど、楽しんでいるのは間違いない。
その間に挟まれた私はさっきよりも体を小さくしていたんだけど、しばらくするとサッチさんが咳払いをひとつした。

「…今日のフィルちゃんすげえかわいい、…浴衣とか髪型とか似合ってるし…ほんと、ほんとにかわいいから、」

サッチさんは恥ずかしそうだったけど、でも必死に伝えようとしてくれて。
対する私は耳まで真っ赤にしてお礼すら口にすることが出来ず、うなづくことしか出来ないのだった。
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