「っ……!」

滑らかに入ったスプーンを使い、ほとんど重さを感じないそれをすくい取る。
口に運ぶと、氷とは思えないくらいふわふわとしたものが冷たさと特別な癒しをくれた。

「おいしいです…すごくふわふわ……」

この感動の余韻に浸りたいし、でも続けて食べたいし…やっぱりだめだ、もう一口食べよう。
ふわふわのかき氷は口当たりも軽く優しくて、いくらでも食べることができてしまいそうだ。
そんな私を、正面に座るサッチさんは楽しそうに見ている。

「気に入った?」
「すごく好きです!こんなにふわふわなの初めて食べました。」
「よかった。頭痛くならねえから食べやすいしな。」
「はい。でもお祭りで売ってるようなかき氷も好きですよ。シャクシャクしてておいしいですし。」
「ああ、おれも。毎回いちご味買ってたなあ…フィルちゃんは?」
「一緒です。いろんな味があるから悩むんですけど、結局いちご味に…」
「ははっ、それすげえわかる。」

一番主流な味だからそうなる可能性は低くないにしても、それでもサッチさんと一緒だったことが嬉しいと思う。
そんなことをこっそりと思いながら、サッチさんの様子をうかがう。
今日私はサッチさんに聞きたいことがあるのだ。
さっきの話で流れはばっちりだ、今なら大丈夫なはず。

「…あの、サッチさん、」
「ん?」
「来月の5日って仕事だったりしますか…?」
「5日?んー、その日は……あ、もしかして…」

近辺の大きなイベントだ、サッチさんも勘づいたらしい。
しかもサッチさんは申し訳なさそに眉を下げたので、私も全てを察してしまった。

「『みなとまつり』…だよな?近いし大きい祭りだし、花火きれいだし…」
「…はい。あ、でも仕事だったらそれでかまいませんから!もし空いてたら一緒に行きたいなってくらいだったので、」
「ごめん、本当ごめん。実はその日、その祭りの手伝いしなくちゃいけなくて…」
「え?手伝うんですか?」

てっきり会社の方の仕事だと思ってたけど…お祭りの手伝い?
予想していなかったことを聞いて、さっきまでの残念な気持ちはみるみる小さくなる。

「そう、人手もたくさん要るし毎年会社で協力してるっつーか…依頼としても受けててさ。だから…ごめんな?その日は…」
「い、いえ、そういうことなら仕方ないですから。」

一緒に行けなかったのは残念だけど、そのお祭りの手伝いをしなくちゃいけないのなら素直に受け入れられる気がする。
私は去年のお祭りも行ってたけど、もしかしたらサッチさんとすれ違っていたかもしれないなんて…そう考えると何だか不思議な気持ちだ。

「サッチさんは去年何をしたんですか?」
「去年は…誘導員って言うのかな、横断歩道のとこ立ったり…一昨年は巡回やって、その前も確か…誘導だったかな?」
「へえ…」
「他にも本部の手伝いとか会社に残ってやるやつとかもあるけど、おれはやったことねえし…多分今年も誘導か巡回するんじゃねえかな。」

…ということは、ずっと外で立ってるってことだよね。
休憩はきっとあるだろうけど…日差しが強い時間から手伝うだろうし、熱中症も今話題になってるから心配だな…。

「格好って特別なもの着たりしますか?」
「ん?そこまで固いわけじゃねえけど…あ、腕章は付けるな。」
「じゃあ、去年立ってた場所とかは…」
「場所?口じゃ説明しにくいな…携帯で地図出すか。えーっと……」

言いながらサッチさんは携帯を取り出すと、周辺地図を表示させていく。
そうして操作をしていたんだけど、突然その手がぴたりと止まり、その次にはまるで私を疑うような視線を向けてきた。

「……フィルちゃん、」
「は、はい、」
「場所知ってどうすんの?」
「……参考までに…」
「何の?」

サッチさんの視線が痛い、すごく痛い。
こんなにおいしいかき氷を食べたばかりなのに、こんなに汗をかいてしまったのは絶対にサッチさんのせいだ。

「ご、ごちそうさまでした。」
「コラ。質問に答えなさい。」
「サッチさん、そろそろお店出ましょう、私会計済ませてきます、」

逃げるようにドアへ向かうと、後ろからサッチさんが追いかけてくる気配がした。
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