「アキ、あのね、」
「何?」
「この前サッチさんとご飯食べたんだけど…」
「ああ、そういえば言ってたわね。何かあった?」

今日の私のお昼は自作のサンドウィッチ。
自分でつくると好きな具材だけ入れちゃうんだよね。
ちなみに今回はレタスとチーズとツナマヨを組み合わせてきた。
アキはそんなにお腹が空いていないらしく、果物がごろごろと入ったゼリーを食べている。

「…ご飯食べるときって向かい合うでしょ?」
「うん。それで?」
「それが恥ずかしくて落ち着かないんだけど…どうすればいいと思う?」
「知るか。」

ひ、ひどい…!
アキはぴしゃりと言い放ち、大きくカットされた桃をぱくりと頬張った。

「ひどくない…?」
「ひどくない。」
「せ、せめてアドバイスとか…」
「慣れろ。以上。」

そ、そんなあっさり…。
私はサッチさんとご飯を食べる度にこれで悩んでいるというのに。
サッチさんが正面にいると緊張するし、食べてる姿を見られていると思ったら普段のように食べられないし、ぎくしゃくしちゃって話すのも大変だし…この問題は出来ることなら早く解決したいんだ。
桃を飲み込み終えたアキは、私の納得いかなさそうな顔を見て軽くため息をつく。

「そのうち慣れるわよ。デートのとき思うように話せないって最初言ってたけど、今はましになってない?」
「……す、少し…?」
「ほら。」

言われてみるとその通りで。
最初のころのデートは緊張して会話をするのも一苦労だったけど、この前ご飯を食べに行ったときはそれよりも自然になっていた。
そう考えると、今回のこともそのうち慣れてくる……のかなあ。

「ご飯だけもいいけど…遠出はしないの?遊園地とか、観光地とか…」
「ゆ、遊園地じゃないんだけど、次会うときは晴れか曇りだったら水族館に行くんだ。」

たまにはデートっぽいところに行こうってサッチさんが提案してくれたんだ。
ぶらぶら歩いてお店を見たり、喫茶店に入ったり…私にとっては今までの場所も十分楽しかったしデートっぽいと思うんだけど…サッチさんはそうじゃなかったのかなあ?
でもサッチさんと水族館に行くのはすごく楽しみで、どの服を着ていこうか今から考えてしまうくらいにわくわくしてる。

「いいじゃない。さっきみたいなどうでもいいのじゃなくて、そういう情報を寄越しなさいよ。」
「どうでもよくないのに…」
「で、雨が降ったときは?まあ水族館だし行けなくもないけど…。」
「……」
「フィル?」

天気予報ではその日の予報は晴れか曇り。
まだ一週間と少し先だから変わるかもしれないけど…現時点ではどの予報を見ても似たような報せばかり。
晴れか曇りだから大丈夫かなって、そうサッチさんが言って。
それを聞いた私がふと訊ねてしまった、「じゃあもし雨が降ったらどうしますか?」
そしたらサッチさんはぱちくりと目を瞬いて、ちょっと考えたあとにこう言ったんだ。
「そうだなー、もしも雨が降ったら…」

「……家でゆっくりします。」
「…それはデートしないってこと?それともまさか…」
「デ、デートはします。……サッチさんの家で…」

だ、だめだ、言葉にしただけなのに顔が熱い。
「雨が降ったらおれん家でも来る?」
冗談っぽく、からかうような口調だったけど…それを言われるのが初めてじゃなくて、サッチさんとは何度かデートを重ねたから、家に行くということが最初のときよりもずっとずっと現実味を持って考えることが出来てしまって。
するとどうだ。
前回言われたときはすぐに拒否をしたのに対し、今回の私は躊躇いながらもイエスと返したのだ。
サッチさんは自分が提案したものの、私がまた拒否すると予想していたのか少なからず動揺していたのが伝わってきた。
正直な気持ち、サッチさんとふたりきりでいるのもいいなって思ったんだけど…ど、どうしよう、まさか雨降ったりしないよね?晴れかくもりだよね??

「…ねえ、雨乞いしようか?」
「!し、しなくていいから、」
「赤飯炊かないと…どうしよう、ハルタさんに報告を…」
「それもしなくていいから!」

そ、それだと事が大きくなる気がする!
焦りながらアキを止めるものの、その日の天気がどうあってほしいのかははっきりと答えを出せないのであった。
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