待ちに待った金曜日。
ずっとずっと楽しみにしていた金曜日。
約束の時間まであと三時間ちょっとというところ。

「じゃあ六時半に駅で待ってて。迎え行くな。」

電話越しだったけど、絶対いつもの笑顔でそう言ってくれたサッチさんを思い出すとやっぱりどきどきして仕方がない。
講義も終わってあとは時間を潰すだけ…だったのに。

「あんたねえ、やっぱり今日断りなさい。」
「やだ…げほっ、」

そう、こんな大事なときに限って風邪を引いてしまったのだ。
治そうと薬を飲んだり早めに寝てみたりしたものの体調は悪化するばかり。

「やだじゃない。しかも昨日より悪化してるし。」
「せっかくご飯行こうって言ってもらったんだもん、絶対やだ…」

いつもより早く上がれそうだし私も次の日が休みだからどう?って。
私が気に入るだろうなって思ってたお店だから今からすごく楽しみだって言ってくれて。
そんなの二つ返事で受けるに決まってて。
なのになのに、私ときたら。

「あのねえ、フィルはよくてもサッチさんが困るでしょ。そんな咳き込んで具合悪そうにしてる人とデートして楽しい?」
「で、でも我慢するから」
「もし感染ったりでもしたらどうするの?余計迷惑でしょ。」

一段落したって言ってたけど…でも私よりもずっと大変そうなサッチさんに風邪を感染すなんて絶対にしたくない。
せっかく誘ってくれたのにという気持ちはあるけど、その可能性を考えてしまうとやっぱり…

「…今日、断る。」
「…あの人なら大丈夫だって言ってくれるわよ。ほら、早く連絡して。」

今日はお店に入ってるって言ってた。
そうでなくても仕事中だろうしメールの方がよさそうだ。
…はあ、サッチさんとご飯行きたかったなあ。

『お仕事お疲れ様です。今日の約束なんですが体調が悪くて行けそうにありません。せっかく誘ってくれたのにごめんなさい。』

「…これで大丈夫かな、」
「…また元気になったら連れていってほしいとか入れとく?」
「う、うん。」

ーー


友だちと別れ家に到着。
日が落ちてくると余計に寒くて、お風呂で暖まったあとはすぐに布団へ潜り込んだ。
食欲もわかなくて…断って正解だったと今になって思う。

(返信来ないなあ…)

眠ってしまう前にサッチさんからの返信だけは確認したい。
けど待てども待てども反応のない携帯に何だか不安になってしまう。
そうしているうちに体はぞくりと冷えてきて、まぶたはだんだんと重くなってきて。

(まだ、だめなのに、)

意識の途切れた私の手から携帯がぱたりと倒れた。
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