いろんな意味で大変だった初めてのデートも無事終わって。
楽しかったなあとどきどきしながら思い出に浸っていれば、ふととある事に気がついた。

「あと二日かあ…。」

あと二日でサッチさんと付き合って一ヶ月になる。
たかが一ヶ月かもしれないけど、私にとって初めてむかえる少し特別な日。

「…な、何かしたほうがいいのかな。」

そういうメールとか、電話とか、あるいはプレゼントとか。
何だかサッチさんをより一層意識してしまってどきどきしてしまう。
未経験の頼りない頭で考えていると、引っかかることがひとつ出てきた。

「サッチさんって記念日はお祝いする派なのかなあ…。」

気になってネットを少々検索。
…どうやら記念日を大事にするのは女の人が多いみたいだ。
男の人はする人ももちろんいるけど、しない派だったり記念日自体を忘れてしまう人も少なくないらしい。
じゃあ…サッチさんもしない派?
サッチさんくらいの歳だったらしない人の方が多そうだけど…でもサッチさんは当てはまらない気がしなくもない。
だって昨日も私のことたくさんリードしてくれたし普段のメールや電話だってそうだし、私よりもそういうことに気がまわりそうに思える。
じゃあ何かしてもよさそうだけど…でも所詮は一ヶ月。
誕生日やイベント事、それに付き合って一年だとか…そういうのと比べてしまうとそこまで大きなことじゃない。
もしサッチさんがする派だったとしても一ヶ月のお祝いをするかといえば微妙だし、それこそさっきのような大きな日だけのような気がする。
「たかが一ヶ月くらいでそういうことすんの?」なんて面倒な女だとは絶対に、絶対に思われたくない。
それにそこまではいかなくても…サッチさんは今仕事が大変な時期みたいだし気をつかわせるようなことになっても困る。
そ、それに付け加えるなら一ヶ月でするなんて私だけうかれてるみたいで恥ずかしいし…って何だろう、これって…

「わ、私サッチさんのことすごく好きなんだなあ…。」

ーー


「…れで今日な、仕事すげえがんばれた。」
「何でですか?」
「だって昨日のデートでフィルちゃんいっぱい補充したからな。」
「!えと、そ、そうですか、」

やっぱりサッチさんは私をからかうのが好きらしい。
補充だなんて何だか成分みたいな扱いにどう返していいかわからず困ってしまう。
でも私が今日一日ずっと幸せな気分だったのは昨日サッチさんと一緒にいたことを思い出してたからで…も、もしかしたら似たようなものなのかもしれない。

「いっつも電話すんの遅くてごめんな?眠たかったらちゃんと言ってくれよ?」
「い、いえ、大丈夫です。サッチさんあの…」
「ん?」

訊きたいことがあるのにどうしても言えない。
サッチさんは記念日のお祝いする派なのかとか、一ヶ月でするのはどう思うとか、そういう相手をどう思うかとか…けど本人に訊いてしまうのは抵抗がある。

「……やっぱり何でもないです。」
「くくっ、おれにはそう思えねえけどなあ?…ま、話したくなったら教えてくれる?」
「…はい。」

サッチさんは私よりもずっと大人だ。
恋愛なんてたくさんしてきただろうし、ひょっとすれば一ヶ月なんて気にも留めないのかもしれない。

「それじゃまたな。おやすみ。」
「はい。…おやすみ、なさい。」
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