見た目は軽い感じだけどサッチは仕事もできるし、特に状況を読んだり相手のことを見たりっていう力は人一倍優れてると思う。
仲間内ではぼくやイゾウがそういう力に優れてるって言われてるけどそれこそサッチだってぼくらと同じくらい、もしかしたらサッチの方が上かもしれない。
だからこれだけサッチが言うんだったら案外冗談でもないんじゃないかってぼくは思ったし、何も言わないけどイゾウもきっとそう考えてたと思う。

「そりゃまあ、あいつに相手されてその気にならねえはずねえと思うぜ?見た感じ…あの子は異性関係とか男との付き合いも経験なさそうだったし。」
「ふうん。じゃあさ、三人で会ったんでしょ?その子、マルコとはどんな感じだった?」

そう訊ねると、サッチは眉を寄せてその時のことを思い出す素振りをした。

「…何か、心開いてるって感じ?あいつには結構いろんな顔見せてたなあ。」
「例えば?」
「んー、笑ったり照れたり…あと恥ずかしそうにしてたかな。マルコもマルコであの子をからかったり何回も名前呼んだりしてたから結構仲良さげな感じでさ、余計に楽しそうに見えた。」

とりあえずマルコがその子のことを少なからず気に入ってるってことは確定かなあ。
それに…話を聞く限りじゃその子はマルコに気がありそう。
異性と付き合うとかっていう経験が少なくて馴れてないから、そういう反応になっちゃうだけかもしれないけどね。

「なーんだ、普通にいい感じなんだね。」

まあ悪い雰囲気なんてなさそうだし、もしかしたらこのまま上手くいっちゃうのかも。
でもそれはそれでちょっとつまらないな、なんて思ってたら。

「んー、まあ…そうなんだけどな…。」

サッチの様子が何だか変。
釈然としてないような…口がへの字に曲がってる。

「…サッチ、何か引っかかってんだろ?ほら言いな。」
「いや、別に大したことじゃ」
「言え。」

イゾウってば、それってもう脅しだよ?
そんな鋭い目で睨みをきかせたイゾウに嫌だって断れるやつなんていないからね?

「本当大したことじゃねえぜ?ちょっと気になるくらいなんだけどな…」

イゾウの睨みに慌てたサッチは大人しく話すことにしたみたい。
うん、それが賢い選択だと思う。

「…あの子、おれには笑わねえの。目合っても大抵は慌ててそらされてたしさ。そりゃあ最初の印象が悪かったっていうのはわかるけど…マルコにはすげえなついてるのにおれには全然なんだよ。」
「誤解とかはその時に解いたんでしょ?じゃあまだサッチに馴れてないだけだったんじゃない?」
「んー…。でもさ、ちょっと状況は違うけど…会うのは同じ2回目なのにマルコには楽しそうにすんだぜ?あいつ絶対餌付けか何かし…あ、」

サッチよりもマルコの方が親しそうって何だか珍しいかも。
そんな状況に馴れてないからただ単に戸惑ってるだけなんじゃ、とか思っていたらサッチが急に何か思い出したみたい。
だからどうしたの?って訊ねたまではよかったんだけど…。

「…そういえばさ、あの子ケーキ運ばれてきたときすっげえ幸せそうっつーか嬉しそうな顔したんだって。それに食べてるときとかもさ、すごくおいしいですって顔に書いてあんの。本当わかりやすいくらい顔に出るんだよな、あの子。あと…」

…うわ、ちょっと待って。
何でこんなに饒舌になってるの?
サッチの顔だんだん気持ち悪…いや、楽しそうな表情になってるよ?
…これってあれだよね、もうそういうことだよね。
つまりサッチは自分よりもその子といい感じのマルコに…ってこと?
恋するフランスパンとか…だめだ、面白すぎて顔なんて見れないよ!

「ん?どうかしたか。」

…え?
ぼくらの反応見てもわからないの?
隣のイゾウなんてほら、もうあきれちゃってるじゃん。

「…サッチさあ、その子のこと気になる?」

もしかしてとは思うけど…サッチ、さっきの表情とかって無意識だったりする?

「はあ?マルコみたいなこと言うなよ。…いいか?おれが興味あんのはコドモっぽい女の子じゃなくてオトナの女性。あの子のどこに惹かれるとこがあるのかおれが聞きたいくらいだってのに…。」

確かにサッチは状況を読んだり相手のことをみたりする力はすごく優れてる。
…なのに。
自分の気持ちにはびっくりするくらい疎いし鈍いし、さっぱり気づかないみたい。
マルコも似たようなことを言ったってことはマルコもサッチの変化に気づいたんだと思う。
この様子じゃマルコは何も教えなかったんだろうね。

「…何だよ。」

あきれてしまって何も返す気にならない。
いつも鋭いくせに何でこういうことは気づかないかなあ。

「…ねえイゾウ。これって確定でいいよね?」
「奇遇だなハルタ。おれもそう思ってたところだ。」

イゾウもぼくと同意見。
ちょっと楽しそうにしてるのはこの先の展開に面白味を感じたせいだと思う。

「だから何だよ、はっきり言えって!」

こんなに面白いことぼくらが素直に教えるわけないじゃん。
サッチ、きみが自分の気持ちに気がついたらどんな反応するのかな。
その時はちゃんとぼくらの前で気がついてよね?

「え?やっぱりサッチはバカなんだなって話だよ。」
「ああ。それも重度の、だ。」
「意味わかんねえし!おまえらが揃うと本当に…、げ!依頼人から電話…!」

携帯片手に慌てて部屋を出ていくサッチ。
ぼくとイゾウはふたり揃って大きな大きなため息をついた。
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