「あーくそ!お前強すぎだろ!」
「おいハルタ、もう一回だよい。」
「何回でもどーぞ?まあぼくが勝つけど。」

コントローラーを手に悔しがるマルコさんにエース、そんなふたりを余裕な笑みで返すハルタさん。
予想外にもマルコさんがやる気を露にしていて、私が思っていたよりも負けず嫌いだったということがわかった。

「ハルタはゲームだと何やらせても上手くてな。おれたちの中じゃ断トツだ。」
「さっきからずっと勝ってますもんね…。」

隣でワインを開け始めたイゾウさんは見ないふりをして返事だけする。
私も少し前に相手をさせてもらったけどハンデを付けても完敗で…圧倒的な勝ちを手にしてしまうハルタさんにただただ唖然とするばかり。
のんびりと、でも賑やかな雰囲気に包まれる中それは突然やって来る。

ピンポーン。

瞬間どきりと心臓が跳ねた。
来るとすれば、それは恐らくあの人。
ど、どういう顔してたらいいか全然わからないんですけど…!
内心わたわたと騒いではっと気がつくと周りの人たちの視線が私に集中している。

「「「「……」」」」
「…な、何ですか!」

マルコさんもエースもハルタさんもイゾウさんも…みんな揃って同じような表情。
見られる理由はわからなくもないけど…けど!

「え?だって今のサッチでしょ?」
「そうそう。鍵開けてやらなきゃならねえし。」
「誰か行かねえとな。」
「ならフィルしかいねえだろい。」

愉しそうにしないでください…!
サッチさんに会えるのはすごく楽しみだったから出迎えたいという気持ちはもちろんある。
でもあの件があってから初めて会うわけだし、一番に何話したらいいかわからないし、顔見れる自信ないし…!

「…だ、だめです!私はだめなんです!」

ぶんぶんと首を横に振ると全員から笑われてしまった。
それでも絶対に動きませんという意思表示をすれば、可笑しそうにするイゾウさんが仕方がないからと席を立つ。
けど心を落ち着ける時間は与えてもらえない。

「おーっす。」

しばらくもすればいつもの軽い声と一緒にサッチさんが入ってきた。
びくりと緊張してしまって顔なんか見ることができず、足元だけで精一杯。

「お疲れさん。」
「お疲れー!」
「サッチお疲れ。早かったね。」
「おう、とばしてきたからな。」

時計を見ると十時まであと二十分ほどある。
…そういえば前に電話したときは十時過ぎるって言ってたよね。
何だろう、私のためじゃなかったとしても嬉しいな…。

「握り飯してるけど食うか?あと残りと。」
「さっすがイゾウ、わかってるじゃねえか。」

実はこのおにぎり、つくったのは私なんだ。
きっとお腹が空いてるからあれば喜ぶってイゾウさんが教えてくれてマルコさんに冷蔵庫の中身を使う許可をもらいつつ、ハルタさんとエースのいたずらを回避しつつ…普段よりもずっとおいしそうなものが完成した。
で、でも何だか恥ずかしいからサッチさんには絶対に言わない約束。
ちゃんと約束を守ってくれているらしいイゾウさんはちらりと私を見てから部屋を後にした。

「さあ悪ガキ共はどいたどいた。フィルちゃんの隣はおれって決まってんだよ。」
「横暴だー!」
「今日くらいいいじゃねえかよー。」
「そーかそーか、お前らはこれいらねえのか。」

手で追い払うような仕草をしていたサッチさんはふたりの対応ににやりと笑みをつくる。
そして持っていた紙袋から取り出したのは簡単にラッピングされた長方形のもの。

「…フォッサか?珍しいじゃねえかい。」
「当たりー。フォッサ特性ラム酒漬けのドライフルーツたっぷりのパウンドケーキでーす。持ってけって言ってくれてな。」

サッチさんは見せつけるようにそれを持ち直す。
するとハルタさんとエースはさっとスペースを空けて。

「サッチって本当最高だよね。疲れたでしょ、早く座りなよ。」
「とりあえず茶だな、冷たいのと熱いのどっちがいい?」

瞬時に態度を変えたふたりに呆れながら、でもやっぱり笑ながらサッチさんは私の隣に腰を下ろす。
とたんに緊張してしまって心臓はもうばくばくと忙しい。
それでも気になってちらりと横目に見れば、サッチさんもちょうどこっちを見ていたらしく目があってしまった。

「ん?」

み、見られてる…!
慌てて逆方向を見るけど、それでもひしひしと感じるサッチさんからの視線。
こんなときに限って周りの人たちは何も喋ってくれなくて、まるで私の反応を楽しんでいるようだ。
恥ずかしくてどきどきして、でも私が何か言わないとずっとこのままなんだろうなと思うと耐えきれなくて…わずかに視線をずらしてもう一度サッチさんを見る。

「…おつかれさま、です。」
「ありがと。」

動揺してつい顔を背けてしまうくらいずっとずっと優しい声だった。
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