「…そ、それでこれくらいのベポ取ってもらった。」

イゾウさんのおいしい料理を食べながら。
話題は当然のように私たちのことになって、主にエースとハルタさんから質問攻めをされてしまった。
…ハルタさん車の中で一回話したじゃないですか。
そうは思うけどここで言い返したりなんかしたら倍になって返ってきそうだから仕方なく言葉を飲み込んで質問に答えていく。
思い返すとやっぱりどきどきしてついうつ向いてしまえばすぐにからかいの声が飛んでくるし…こ、これくらい見逃してください!

「よかったじゃん。あいつそういうの上手いんだよな、おれもでかいお菓子取ってもらってた。」
「そうなんだ。」
「おう。それにマルコも結構上手いんだぜ。」

マルコさんも?ちょっと意外だなあ。
そう思って本人を見ようとしたんだけど…そのマルコさんの姿はどこにも見当たらなくて。
いつの間に出ていったんだろうと視線を動かしていると、この中で一番年上の人が私の疑問に答えてくれた。

「…ああ、マルコなら向こう行ったぜ?本人は飲みすぎたから酔い冷ましてくるとか言ってたけどな。」
「絶対嘘でしょ。」

心底信じていなさそうな顔のハルタさんがふんと鼻を鳴らす。
マ、マルコさんだってあれだけ飲めばいくらなんでも…いや、やっぱり私もハルタさんと同じ意見かも。
来たときはもしかしてと思ったけど、それから顔色は全く変わらないし話の中で私をからかうことも忘れないし…うん、やっぱり酔ってない気がする。

「…嬢ちゃん、そろそろ締めにするから呼んできてくれるか?多分ベランダにいると思うぜ。」
「はい。」
「イゾウ、やっぱり雑炊だよね?」
「はあ?お前締めは麺に決まってんだろ。なあイゾウ?」

部屋を出ようとしたところで感じた何だか言い争いが起きそうな気配。
私に意見が求められる前に立ち去ってしまおうと静かに、けれど素早くドアを閉めた。

ーー


この部屋は寝室だって言ってた気がする。
初めて入るマルコさんの私室を目の前に緊張しながらドアをノックして様子をうかがってみるものの…中からの反応はなくて。

(…マ、マルコさん?入りますよ…?)

最大限の注意を払いながらそっとドアを開けると部屋は照明が点いていないながらも外からの光が入って視界には困らない。
私から真っ直ぐに正面…窓の向こう側にはイゾウさんが言っていた通りマルコさんの姿がある。
あの煙って…もしかして煙草?
薄暗い部屋をそろりと歩き窓際まで近づいてみるけど、私に背中を向けているせいもあって気づく様子はなさそうだ。

「マルコさん」

こんこん、と窓を軽く叩いて呼んでみる。
するとやっぱり気づいていなかったらしいマルコさんはびくりと体を跳ねさせて振り向いた。
驚いた顔のマルコさんはすごく珍しいし…それに初めてマルコさんにいたずらをすることができた気がして。
少し笑った私を見てマルコさんは決まりが悪そうに口を折り曲げるのでまた笑ってしまいそうになるのをこらえながら窓を開ける。

「ノックくらいしたらどうだよい。」
「しましたよ。…マルコさんって煙草吸うんですね。」
「悪い。嫌だったか?」
「え?わ、私は大丈夫ですよ。でも吸ってるところ初めて見ました。…もしかして今まで我慢させてましたか?」
「いや、前まではやめてたんだが…また吸うようになっちまったんだよい。」
「そうだったんですね。…けど、どうしてです?」

すらすらと流れていた会話はそこで止まって。
マルコさんは黙って遠くを見るように煙草を吸うのでその姿につい見入ってしまう。
マルコさんって本当に何でも似合うなあ…。
ぼうっとそんなことを考えていると、マルコさんがふいにその視線を私へと移すから少し戸惑ってしまった。

「まあ…大人の事情だよい。フィルも吸ってみるか?」

そう言いながらマルコさんは自分が吸っていた物を差し出してくるので慌てて首を横に振る。
マ、マルコさんそれはだめです…!

「冗談だよい。まだ成人してねえだろい?」
「!…そ、そうですね、」
「くくっ、…何慌ててんだよい。」
「な、何でもないです!」

何か悔しい…!
さっきのお返しだとばかりにからかってくるあたりさすがマルコさんだと思う。
マルコさんはくつくつと笑うけど、私は大丈夫だと言ったのに煙が来ないよう位置を選ぶところはやっぱり優しい。

「…で、どうした?」
「イゾウさんがそろそろ締めにするからって…。」
「ああ、わかったよい。」

まだ火がついていたそれを消して。
中に入ってきたマルコさんからはほんの少し煙草のにおいがした。
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