「ようフィル久しぶり。ハルタもありがとな。」

鍵を開けてくれたのはエースだった。
私たちが寄り道している間に追い越されちゃったみたい。

「久しぶり。元気してた?」
「おう。あ、それ片方持ってやるよ。」

ひょいと私が持っていた荷物の重い方を持ってくれる。
軽々と持つ様子にやっぱり男の子だなあと少し羨ましく思ったり。

「ありがとう。」
「…ねえエース、今どうなってる?」

怪訝そうな顔でハルタさんが訊ねて。
それを受けたエースはちらりと後方を見て、それからうんざりとしたようにため息をついて。

「…お前ら、今のあいつらはだめな大人の見本だぞ。絶対ああいう風になるなよ。」

私とハルタさんが揃って顔を見合わせると、エースがとりあえず着いてこいと言うのでそれに続く。
いつもの部屋に続くドアを開ければそれはもう唖然としてしまいそうな惨状にハルタさんが心底幻滅したようにこう言った。

「絶対なりたくない。」

テーブルを挟んで向かい合うようにマルコさんとイゾウさんが座っていて、そのテーブルにはくつくつとおいしそうに湯気をたてるお鍋を中央にしてその周りを数種類のおかずが囲んでいる。
それだけなら何の問題もないんだけど…五時を過ぎたところだというのに空になって避けてあるらしい瓶や缶の数がおかしい、それはもうおかしい。

「悪いな、助かったよい。」
「よう、先にやってるぜ。」

少し苦笑いのマルコさんとは逆に上機嫌そうなイゾウさんは手に持っていたコップをぐいと傾けて、それか空になると中央にあった瓶の中身をとくとくと注ぎきる。
また数が増えたんですけど…。

「ちょっと!何なのこの残骸!」
「いいじゃねえか別に。仕事も片付いたし飯もつくった、マルコも昼から空きだっつーからじゃあ飲むかってなるだろう?」
「ならないよ!」

な、何だかハルタさんがお母さんに見えてきた…。
今まで知らなかったけどハルタさんはこういう役割もするらしい。

「そう怒るなよ。ほら、お前の好きなやつつくってるぜ。」
「話そらさないでよ!…食べるけど。」
「くくっ。エース、その日本酒くれ。」
「おいおい、ちょっとは間隔空けろよ。」

受けとると迷いなく開け始めたイゾウさんにハルタさんは盛大に深いため息をつく。
イゾウさんはすごくお酒飲みだってハルタさんが言ってたけど…この姿を見て納得してしまった。
思い返してみれば前の時はハルタさんがイゾウさんの管理をしていたような気もしてくる。

「まあふたりも来たことだし追加するか。嬢ちゃん、いつまでも立ってねえで好きなとこ座んな。」

少しも顔色の変わらないイゾウさんは手際よく準備を始めてしまった。
その姿にただ唖然としているとハルタさんとエースが私を庇うようにさっと前に出て。

「フィル、こんなだめな大人の隣に座らない方がいいよ。イゾウはぼくが相手するから。」
「そうだぜ、お前はおれの隣に座れ。今日のマルコはだめなマルコ…いてっ!」

エースの後ろには笑ってはいるけどそれ以上に怖さを感じる顔をしたマルコさんが立っていて、それを見たエースがまずいというように顔色を変える。
や、やっぱりあんなにだめって言われたらマルコさんだって…

「フィル」
「!は、はい、」
「言っとくがおれはだめでもねえしちゃんと意識はあるしこれっぽっちも酔ってもねえ。そもそもこれくらいなら飲んだうちに入らねえよい。わかったか?」
「…はい。」

…酔ってないって言う人は大抵酔ってるんだっていうのをどこかで聞いた気がする。
マルコさんがこんなことを自分から言うなんてやっぱりお酒の効果なのかなあと思っていると、マルコさんはそのまま部屋を出ていこうとするから。

「マルコさん、どこ行くんですか?」
「熱燗取ってくる。」

返された言葉に何も言えなくて。
やっぱり唖然としながらマルコさんを見送っている私の後ろから「冷やもいいけど熱燗もいいよなあ」という楽しそうなイゾウさんの声が聞こえてきた。
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