「あの、わざわざありがとうございます。」
「いーのいーの。行きがけだし、それにたくさん話したいしね。」

駅で待ち合わせをして迎えに来てくれたハルタさんと一緒にマルコさんの家へと向かう。
本当はエースも一緒に来る予定だったんだけど、仕事が延びたみたいで直接向かうことにしたんだって。

「久しぶりだね、元気してた?」
「はい。風邪とかもひいてませんし。ハルタさんは?」
「元気だけど…もー今月すっごい忙しくてさあ。やっと片付いたとこ。」

息をたっぷりと吐いたハルタさんが腕を目一杯伸ばしてシートにもたれる。
…社会人って私が思っているよりもずっと大変みたい。

「まあぼくのことはいいからさ、今日はフィルのこと教えてよ。」
「え、」
「そのための飲み会なんだからね?」

あ、あれ?サッチさんから聞いてたのと何か違うんですけど…。
早々に話題を切り替えにかかるハルタさんに嫌な予感がしてしまう。

「いや、わ、私のことなんて」
「だめー。じゃあ初デートの話から聞かせてもらおうかな。」
「!い、いや、普通に買い物とか」
「く わ し く …ね?」

にっこりと笑ってはいるのに迫る圧力をひしひしと感じて。
予想が当たってしまったことを残念に思いつつ、隣のハルタさんを見て素直に従っておくのが正解なんだろうと判断した。

ーー


「そっかそっか。サッチは結構いろんなお店行くからいっぱいおいしいとこ連れてってもらったらいいよ。」
「は、はい…。」

最初のことと、二回目のことと。
さらには普段どんなやりとりをしているのかまで訊ねられて…恥ずかしすぎて何だか疲労感でいっぱいだ。
…もちろんあのことについては話していないけれど。
会話の中で「手はつないだ?」と言われたので否定しながら首を横に振るとハルタさんは大きな声を出して驚いていた。
友だちも言ってたけど…私サッチさんに気をつかわせちゃってるのかな。
サッチさんのことをよく知ってるハルタさんが驚くんだからやっぱりそうなのかもしれない。

「あ、そうだ。」
「はい?」
「さっきの話エースにもしなきゃいけないと思うよ。聞きたがってたから。」

じゃあエースもいるときに聞いてくれたらいいじゃないですか…!
楽しそうに含んだ笑い方をするハルタさんを見るに絶対わざとなんだろう。
話すのだいぶん恥ずかしいんだけどなあと思っていると、私の携帯に着信が入った。

「ハ、ハルタさん」
「何?」
「あの、マルコさんから電話かかってきたんですけど…」
「買い忘れかな?いいよ、出て。」

あ、スピーカーで。
そう付け足したハルタさんに従い操作をすると、車内には少し大きめのマルコさんの声。
…ふふ、マルコさんの声が大きいって何だか新鮮だなあ。

「どうしたんですか?」
「悪いんだが…来る途中で酒買い足してきてくれねえかい?」
「え?」
「別にいいけど。少なかったの?」
「、その…なんだ、まあイゾウと飲み始めて…」

珍しくマルコさんは歯切れの悪い様子で。
今一つはっきりとしない物言いに引っかかりを感じたのは私だけじゃなかったみたい。

「…何?なーんか引っかかる言い方なんだけど。」
「…いや、」
「まさかこんな昼間っから飲み競べなんてしてないよねえ?ふたりともワクだってこと知ってるでしょ?それにさあイゾウは抑えるとかしないんだからマルコがちゃんと見なきゃだめなんだよ?マルコだったらもちろんわかってるよね?まあまさかとは思うけどぼくらの中で一番の常識人のマルコがこーんな昼間っからイゾウ相手に」
「あーわかってるわかってる、わかってるから何か適当に買ってきて……ああ、日本酒がほしいらしいよい。それ含めて頼む。」

もう聞きたくないというようにハルタさんの言葉を塞ぐから、顔が見えなくてもマルコさんのうんざりした表情が目に浮かんでくる。
マルコさんもハルタさん相手には強く出られないのかもしれない。

「はいはい、了解でーす。」
「悪いな、じゃあ頼んだよい。」
「はい。失礼します。」

通話が終了したあと隣から聞こえてきたため息。
普段はマルコさんやイゾウさんの方がハルタさんのお兄ちゃんって感じだけど今は逆みたいだなあと思う。

「…じゃあちょっと寄り道していい?」

呆れたような様子を見せるハルタさんに私は少しだけ笑って返事をした。
- ナノ -