「昨日はありがとうございました…いや、違う。」

昨日一緒に出かけてもらったことに対してのお礼だって受け取ってもらえたらいいけど…も、もしあのことに対してだって思われたら困るよね、だからだめだ。

「お仕事お疲れさまです。昨日サッチさんが教えてくれた通りに天ぷら揚げたら油っこくなくてさくさくに…いや、これも違う。」

…そもそも昨日っていう言葉を使うのがだめなんだと思う。
だ、だってあのこと思い出しちゃうし…使わなかったとしてもあのことをスルーし続けて会話をするっていうことが私には無理だ。

「ああもう、どうしよう…。」

結局メールは来ないまま時刻は夜の九時を過ぎてしまった。
友だちはああ言ったけどこのままサッチさんからメールが来なかったらもうこの先私から連絡出来る気がしない。
そうなっちゃうのは嫌だし、だから何か一言でも送ってみようと文を考えるものの…やっぱり上手くいかなくて時間だけが過ぎていく。

「でもやっぱり最初は昨日のお礼から言いたいし…、!!」

はあ、と深い深いため息をついて打ちかけの文章を消していると画面が着信のそれに切り変わって。
待ち望んでいた相手からのはずなのに取るのを躊躇ってしまったのはやっぱり、やっぱり昨日のことを思い出してしまったからだ。

「…は、はい。フィルです。」
「よう。今大丈夫?」
「!はい、」

ふ、普通だ…。
私がかまえすぎだったのかいつもと変わらない調子のサッチさんに少し気が抜けてしまう。
でも連絡来てよかった…それにこれでサッチさんまでいつもと様子が違ったら私なんてもっと慌てるだろうしむしろ助かったのかもしれない。

「あのさ、金曜の夜にいつもみたいな感じで飲み会やるんだけどフィルちゃんもどう?場所もメンバーも前と一緒な。」

何て言われるんだろうとどきどきしていたら告げられた用件は意外なもので。
そういえば学園祭以来サッチさん以外の人たちとは会っていない。
マルコさんとは前に会ったけど…で、でもあの時のことは秘密だって言われてるからカウントしちゃだめだ。
久しぶりだなあ、エースもハルタさんもイゾウさんも元気にしてるのかなあ…。

「えっと、迷惑じゃないのなら…」
「ないない。ほら、おればっかフィルちゃんと会ってるからハルタとかエースが話したそうにしててよ。だからいっぱいかまってやってくれる?」
「え?えと、かまうって」
「くくっ。普通に話してりゃそれでいいって。」

相手してもらってるのは私の方な気がするけど…そうじゃないのかなあ。
でも集まってわいわいしてる雰囲気って楽しそうで私も好きだし今から楽しみになってきちゃった。
…そ、それに昨日あんなことがあったし次もサッチさんとふたりでってなるよりもみんながいた方がちょっとだけ気持ちが楽かもしれない。
もしかしてサッチさんそういうことも考えてくれたのかな、だとしたらやっぱり優しいな…。

「それでな?悪いんだけどその日おれだけ夜仕事入っててさ、行けるの十時…過ぎとかになりそうなんだわ。ごめんな。」
「いえ!仕方ないですしあの、無理しないでください。」

…あれ?ちょっと待って?
謝られてつい言っちゃったけど…これってもしかして「来なくてもいいです」って受け取られたりする?
わ、私そんなつもりは全然ないけどでもその、昨日の今日だし、最後別れ方あんなのだったし、私何にも返せなかったし…「会いづらいから来ないでください」って受け取られたりしないよね!?
ど、どうしよう!?サッチさん優しいし気も回るしもしかしたらそういう風に受け取っちゃってもおかしくないし…!

「ありがと。詳しいこと決まっ」
「サ、サッチさんあの!」
「ん?」

とっさに声出しちゃったけど…何て言ったらいいの!?
けどここで変に時間とっちゃったらサッチさんだって変に思うし早く何か言わないと!
え、えっと、とりあえず会うのが嫌じゃないってこと伝えなきゃいけないから…!

「あ、会えるの!楽しみにしてます!」

私の場合、慌てて口を開くと何かしら言葉が足りないというのはよくあること。
本当なら「無理はしてほしくないですけど、でも少しでも会えたら嬉しいです」なんて少しやわらかい言い方をするべきだったんだろう。
でも私にできたのは直球もいいところな言い方で。

「……う、ん。ありがと。」

…絶対失敗したあああ!
だってサッチさん戸惑ってたし!何か気まずそうだったし!何か不自然だったし!!

「詳しいこと決まったらまた連絡するな。それじゃ、…おやすみ。」
「…おやすみ、なさい…。」

明らかにいつもとは違うサッチさんの様子にがっくりと肩を落として。
何か変な勘違いされたかなあ、あの事について含んだつもりはないんだけどなあ。
自分で心配事を増やしてしまうこととなり、その日はなかなか眠りにつくことができなかった。
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