「遅刻するなんて珍しいじゃない。どうしたの?」

二限目の講義が終わってすぐに友だちが声をかけてきた。
けど私の反応はいまいちで、それどころか心ここにあらずといった感じだ。
それを変に思った友だちが私の目の前でぱたぱたと手を振る。

「ちょっと、大丈夫?」
「…だいじょうぶじゃない」

ぼうっと。
どこを見ているというわけでもなく、ただ時折ぱちりとまばたきをするだけの私に友だちが眉を潜める。

「どうしたのよ。昨日言えなかったの?」
「…いった」
「そうなの?…ま、まさか嫌って言われた?」
「……きすされた」

はあ?
心底不思議そうに声を出されたのは言うまでもない。

ーー


「じゃあ結局帰るまで言えなくて、最後別れ際に言ったらキスされたってこと?」
「…そうです。」

時間は過ぎてお昼休み。
友だちに話をまとめられ、あまりの恥ずかしさにテーブルに顔を伏せた。
思い出したくない…わけじゃないけど、でも思い出すのを躊躇ってしまうほどどきどきして頭の中がざわついてしまう。

「…何で?」
「わ、わたしが聞きたいよそんなの!」

もうさっぱりだった。
だって私が言ったのは手をつなぎたいってことだけだ。
なのに何がどうなってあんなことになったのかわけがわからなくて、昨日から私の頭の中はめちゃくちゃになっている。
わ、私サッチさんにあんなことさせるようなこと何か言ったかなあ…。

「聞けばいいじゃない、付き合ってるんだから。」
「だ、だってあれから連絡とってないし、とりづらいし、とってても聞きづらいし…。」
「向こうからは?」
「…来てない。いつもは家着いたとかおやすみとか送ってくれるんだけど…。」

大体は私からお礼とか送ってたから私が何か送らないといけなかったのかもしれない。
けどあのあとは何も手につかない状態でメールなんてとてもじゃないけど出来やしなかった。
サッチさんはいつもと変わらない感じだったと思うけど…じゃあどうしてメール来なかったんだろう。
何か不安だな、私何かしちゃったのかな…。

「でも次つなごうかって言ってくれたんでしょ?ならよかったじゃない。」

ぐるりと思案していればあっけらかんとそう言われて。
た、確かに嫌そうにはしてなかったと思うからそれはよかったけど…でも問題はそれだけじゃないというか何というか。

「そ、そうだけど。…こういうときって私から連絡する方がいいの?」
「…する勇気あるの?」
「ない。」
「…知ってた。まあ今回は待ってみたら?案外普通に連絡来るかもしれないし…もしかしたら何か説明あるかもね。」

うっかり思い出してしまって何とも言えない気持ちになる。
ため息をこぼしながらちらりと見た携帯はやっぱり何の反応もないままだった。
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