「デート、どうだったの。」

とうとう捕まってしまった。
にやにやと楽しそうな顔を向ける友だちはもう逃がすまいと私の服をしっかりとつかんでいる。

「…た、楽しかったです。」
「そうじゃなくて。」

呆れた様子でぱし、と頭を叩かれて。
私がその部分を押さえていると、頼んでもいないジュースを差し出してくる。
まるで存分に喋れとでも言われているかのようだ。

「どこ行って何してどんなこと話したの。 もう逃がさないわよ。」

ーー


「…そ、それから夜に電話して終わりました。」
「なかなか楽しそうでよかったじゃない。格好よかった?」

サッチさん。
にっこりと笑って付け足されて。
名前を言われただけでもどきりと心臓が跳ねて、思い返してさらに顔が熱くなる。
…う、うん、格好よかった、すごく。

「わかりやすいわねえ。で?」
「え?」
「キスしたの?」
「!?」

びっくりしてジュースをこぼしてしまいそうだった。
ど、どこからそんな風に繋がるの!

「手くらいつないだんでしょ?キスは?」
「つつつながないし!できるわけないし!」
「付き合った瞬間にキスしようとしといて何言ってるのよ。」
「してない!してないから!!」
「だからそれは知ってるって。」

ふうふうと肩で息をしていると、友だちは拍子抜けしたとばかりにため息をつく。
あの時のことを思い出すと今でも尋常じゃないくらい心臓が早くなるんだ。

「あの人何歳だっけ?」
「…次で三十六って言ってた。」
「まあ何歳でもいいけど…そういう素振りはなかったの?空気とか。」
「な、なかったと思うけど。…あるの?普通は。」
「だってもうその歳でしょ?フィルみたいに初めての相手じゃないだろうし…。」

…そういえば誰かと付き合ったりっていう経験は豊富だってハルタさんが言ってたっけ。
サッチさんはもしかして手つなぎたかったのかなあ。
でもそんな素振りなかったと思うけど…ま、まあ私がそれどころじゃなかったし私が気づかなかっただけかも知れない。

「まあフィルに合わせて待ってくれてるんじゃない?ほら、手つなぐつながないでこんなのになってるから。」
「こ、こんなのって…。」
「フィルは手、つなぎたいの?」

あの日はそれどころじゃなくて考える暇もなかったけど…どうなんだろう。
サッチさんと私が手をつないで歩いてるところなんて想像もつかない。
…で、でもサッチさんの手大きいし、すごくがっちりしてるからちょっと触ってみたいなって思うし、つないだらもっと近くにいられるだろうし、ええと…

「…本当わかりやすいわね。じゃあフィルから行ってみれば?」
「え!?」
「向こうに任せっきりもよくないと思うけど?」

確かに良くないとは思うけど…でも私から!?
そ、そんなの絶対無理!ろくに目も合わせられなかったのに手とかつなげるわけないし!

「次いつ会うの?」
「き、決まってない。もうすぐ時間とれるようになるとは言ってたけど…まだ忙しいんじゃないかな。」
「まあ相手社会人だもんね、なかなか時間合わな…」

その時だ。
私の携帯が振動してメールの受信を知らせる。
色で発信者がわかってしまい、つい慌ててしまう。

「メ、メール。サッチさんから。」
「うそ!何て?」

促されてどきどきしながらメールを開く。
文面には授業お疲れさまということと、時間がとれたから会わないかということが書かれてあった。

「来週の日曜で午後から空いたからどう、って…。」
「タイミングいいわねー!ほら返信して!早く!」
「わ、わかった。」

…嬉しいな、サッチさん時間つくってくれたんだ。
仕事忙しそうだしきっと疲れてるのに会ってくれるんだから…私も少しくらいがんばらないとだめだよね。
そ、それに…私もサッチさんと手つないでみたいし。

「…次、言ってみる。」
「珍しくやる気じゃない!喜んでつないでくれるわよ、きっと。」
「そうかな。」
「決まってんでしょ。一言だけでいいんだからがんばってきなさいよ!」

そうだといいな。
私はこっそりと、淡い期待をしながらサッチさんに返信をするのだった。
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